時は流れるままに 81
「早かったんですね、皆さん」
客間のテーブルに並んで座るアイシャとカウラと要。アイシャは正座、カウラは横座り、要は胡坐をかいている。
「ええ、渋滞はありましたがなんとか」
そう言って出された茶碗に手を伸ばそうとするカウラだが、安定が悪いのでふらふらと伸びた手が湯飲みを取り落としそうになる。
「そんな不安定な座り方するからだ。体育座りでもしてろ」
要はそう吐き捨てると悠々と茶をすする。そこで突然アイシャが立ち上がる。
「すいません……座卓ありますか?」
「そうですね、ベルがーさんや西園寺さんも……」
「ああ、アタシはいいですよ。まあ正座で五分持たない誰かと違いますから」
その要の挑発的な発言。にんまりと笑う要のタレ目はカウラを捉えている。同じく勝ち誇った笑みを浮かべているアイシャの視線がカウラに飛ぶ。だが、アイシャは膝から下の痺れに耐えかねてそのまま座り込んでしまう。
「じゃあ、ちょっと待っててくださいね」
そう言うと薫は消えていく。すぐにアイシャの顔が誠の目の前に動いてきた。
「何度も言うけど、あれお姉さんじゃないの?本当にお母さん?」
毎回言われ続けてもう誠は飽き飽きしていた。実物を見たのは夏のコミケの前線基地にここを使ったとき。その時同じ質問を何度も受けたのでもう答えをする気力も無かった。
「ああ、叔父貴の写真でもあの顔だぞ。あれじゃねえか?頭を使う人間は、年をくいにくいって言うじゃん」
「言わないわよ」
アイシャの一言だが要は黙って茶をすする。
要の叔父、保安隊隊長である嵯峨惟基が新人の胡州陸軍の東和大使館付武官時代。まだ彼の名前が西園寺新三郎であったころに彼はこの道場に挑戦を仕掛けてきたという。
その時、めったに他流試合では剣をとらない母が彼の相手をした場面の映像は誠も目にしていた。
「まあ僕はそういうものだと思っていましたから……」
「そうだろうな。身近な人間は気づかないものだ」
カウラは体育すわりのままうなづいてみせる。そこに笑顔で座卓を手にした薫が戻ってきた。
言われて意識して見るとやはり自分の母は妙に若く見えた。高校時代あたりからそのことは誠自身も引っかかっていた。だがそんな意識していた時期も過ぎるとそういうものだと受け入れてしまっている自分がいた。




