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時は流れるままに 8

「あとは……これが出来れば……」 

 シャムがそう言うとアイシャから見えるように目の前の原稿を指差す。

「がんばれば何とかなるものね。それが終わったらシャムちゃんは寝ていいわよ」 

 その言葉に力ない笑みを浮かべるとシャムはそのまま置いていたペンを握りなおした。

「じゃあがんばれよ。アイシャ!取り合えず報告に行くぞ」 

 いつの間にかアイシャの後ろに回りこんでいた要がアイシャの首根っこをその強靭なサイボーグの右腕でつかまえる。

「わかっているわよ……でもランちゃんは?」 

「ああ、今日は非番だな。代わりにタコが来ているぞ」 

 吉田は作業を続けながらそう言うと空になったポテトチップスの袋を口に持っていく。

 クバルカ・ラン中佐。彼女は現在の保安隊実働部隊隊長にして保安隊副長を兼ねる部隊のナンバー2の位置にある士官だった。見た目はどう見ても目つきの悪いお子様にしか見えない彼女だが、先の遼南内戦の共和軍のエースとして活躍した後、東和に亡命してからは軍大学校を主席で卒業したエリート士官だった。一方のタコと呼ばれる明石清海あかしきよみ中佐は遼州の外側を回る惑星胡州出身の学徒兵あがりの苦労人。野球と酒をこよなく愛する大男で誠達も所属している保安隊野球部の部長をしている男だった。先月の人事異動により保安隊の上部組織である遼州同盟司法局の調整室長を拝命し、ランとの引継ぎ作業と野球部の練習の為によくこの基地を訪れることがあった。

「タコが相手なら報告は後で良いや。とりあえず射撃レンジで……」 

「おう、ワシのこと呼んだか?」 

 腰の拳銃に手をやった要の後ろに大きな影が見えて誠は振り返った。長身で通る誠よりもさらに大きなそして重量感のある坊主頭の大男が入り口で笑みを浮かべていた。

「明石中佐。なんでこんなところに?」 

 さすがに気まずいと言うように要の声が沈みがちに響く。

「何ででも何もないやろ。シャムにええ加減にせんかい!って突っ込み入れに来たに決まっとるやなかい」 

「ああー……」 

 振り向きもせずに吉田が奥を指差す。左手を上げて明石に手を振るシャムがいた。

「一応、準待機言うても仕事中なんやで。少しは体調を考えてやなあ」 

「今年の秋の都市対抗の試合でバックネットに激突して肩の筋肉断裂って言う大怪我居ったキャッチャーがいたのは……どのチームかな?」 

 吉田のあてこすりにサングラス越しの視線が鋭くなるのを見て誠は二人の間に立ちはだかった。明石も吉田の挑発はいつものことなので一回咳払いをすると勤務服のネクタイを直して心を落ち着けた。

「ああ、ワレ等の室内訓練終了の報告な。顔さえ出してくれりゃええねん。取り合えずデータはアイシャが出しとるからな。それにしても嵯峨の大将相手とはいえ……まるでわややんか。ほんまになんか連携とか、うまく行く方法、考えなあかんで」 

 そう言って出て行く明石に敬礼するカウラと誠。要はタレ目をカウラに向けて笑顔を浮かべている。

「ここで暴れるんじゃねえぞー」 

 吉田はそれを一瞥した後、再び端末のキーボードを叩き始めた。

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