時は流れるままに 75
「全てにおいて予想以上というところかしら。隊長!予定出力に達しました。後は……」
『はいはい、絞ればいいんだろ?早速はじめるよ』
嵯峨はそう言うと口に左手を持っていく。それでタバコを口にくわえていないことを再確認するとそのまま大きくため息をつく。
「タバコなら後にしてくださいよ!以前どれだけその臭いで……」
『すみません。申し訳ないです』
おどけたようにそう言うと嵯峨はエンジン出力を絞る。
『こちらも順調です。観測された干渉空間が縮小……エンジン通常空間に出力転移!』
ヨハンの言葉が届いたとたん、轟音が黒い機体から響きはじめる。再び機体の周りを制御を離れた干渉空間が覆う。
「つまらねえなあ。もっとやる気の出るようなアクションはねえのかよ」
ぼそりとつぶやいた要をランが見上げる。
「なんなら……」
そう言ってにやりと笑うラン。明らかにそれは無茶な課題を振るときのランの表情だった。
「遠慮します!全力で遠慮します!」
要はそう言ってごまかしにかかる。そんな彼女を鼻で笑うラン。今度は黒い機体から冷却液が蒸発する煙と振動を伴う轟音が上がり始めた。整備班員の一部、耐熱装備を着込んだ一群がそれを見守っている。
「島田!固定器具の冷却液を追加注入!それと各部の発生動力の観測データをこっちに送れ」
明華はそこまで言うと隣にあった椅子に腰掛けて勤務服の襟の辺りに指を差し込む。
「疲れましたか、大佐」
カウラの言葉に黙って笑みで返す明華。次第に機体の振動は止まり、島田の指示で整備班員達がホースやコードを持ってハンガーを走り回る。勢い良く沸騰した冷却液の蒸気が吹き上がる。作業員の叫び声が響き渡る。
「予想以上。そう言う事だな」
モニターを見つめていたランの言葉に明華は大きくうなづく。
「機体のスペックはまだしも嵯峨大佐の能力は予定をはるかに超えている……陸軍の連中はまだ相当隠し事をしているというわけか」
ロナルドの言葉。それがアメリカ海軍からの出向者の言葉だけに深みを持って誠の耳に響いた。
「そういうことね。まあ隊長を締め上げてものらりくらりとかわされるだけだから。吉田でも捕まえて問い詰めてみようかしら」
部下からコーヒーのカップを受け取った明華。画面にはすでにヨハンの観測したデータのグラフが映し出されている。
「大変だな」
ランの言葉に明華は大きくうなづいた。




