時は流れるままに 73
「起動準備!島田、固定状態はどうだ?」
明華の言葉がハンガーに響く。島田は黒いアサルト・モジュール、『カネミツ』の前で部下達のハンドサインを待つ。
「固定状況異常なし!」
空気がぴんと張り詰めたように感じられる。それが黒い機体の周囲に浮かんでは消える干渉空間の振動のせいだと気づいたとき、誠はヘッドギアをつけてタイミングを計っている明華の顔に目を向けた。
「よし!ヨハンの方はどうだ!」
明華がカネミツの隣に置かれている簡易調整装置をいじっている巨体の持ち主に声をかける。ヨハンはすぐに手を当ててコックピット内部にいる嵯峨の法術展開状況が最適値に達していることを示した。
「よし!じゃあ、隊長!起動開始してください」
『ハーイ』
抜けたような返事をしている嵯峨の姿が一階のハンガーの隣にある管制室に響く。実働部隊の今日の当番の第一、第二小隊。そしてなぜか出てきている第四小隊の面々や、リアナやアイシャ等の運行部の面々もそこにつめていた。
「狭い……」
シャムがそう言うので隣に立っていた誠は少し反対に体をひねる。
「神前君……手が当たるんだけど」
やわらかい腕に当たる感触とリアナの声に手を引っ込める誠。彼を振り向いてにらみつける要。カウラは画面に映されたくわえタバコでエンジン起動実験を開始している嵯峨を見つめていた。
『とりあえず……現在維持している干渉空間を制御してエンジンのバイパスと連結させれば良いんだな?』
嵯峨はパイロットスーツではなく普段の勤務服のままコックピットに座っている。誠も何度か模擬戦の時に相手をしたことがあるが、嵯峨のパイロットスーツ嫌いは徹底していた。
「お願いします。展開率80パーセントを越えた時点で対消滅エンジンの炉を展開空間に干渉させますからそのタイミングを間違えないように」
慎重に指示を出す明華。熱気でむせる管制室。彼女は額の汗をぬぐうと後ろで固まっている野次馬達に目を移した。
「暇というか……何というか……」
「まあ、言うなよ」
その隣で同じように振り向いてみせるラン。シャムは必死になって管制用モニターの空いているのを見つけて自分の機体のスペックを再確認していた。
「シャム……だからちゃんとさっきそこらへんの確認をしておけって言ったんだ」
ランはいらだたしげに必死に起動手順を暗記しようとしているシャムにため息をつく。
「でも大丈夫だよ。初めてじゃないし」
「まあ、それでもミスは許されねーぞ。場合によっては神前に乗ってもらうことになるかも知れないからな」
そう言ってランは皮肉を言いそうな笑みで誠を見上げた。




