時は流れるままに 7
遅い昼飯を本部のある豊川市の大通りのうどん屋で済ませた誠達はそのまま本部に着くとアイシャに引きずられて宿直室のある本部の別館へと連行された。
「どう?進んでる?」
別館の一階。本来は休憩室として灰皿や自販機が置かれるスペースには机が並んでいた。部屋に入ったとたん人の出す熱で蒸れたような空気が誠達を覆った。
「おう、早かったな」
コンピュータの端末を覗きこみながらポテトチップスを口に放り込んでいる第一小隊の三番機担当の吉田俊平少佐が振り向く。奥の机からはアイシャの部下の運用艦通信担当のサラ・グリファン少尉が疲れ果てたような顔で闖入してきた誠達を眺めていた。
「お土産は?何か甘いものは?」
「無いわよ。急いできたんだから」
アイシャのぶっきらぼうな一言に力尽きたようにサラのショートの赤い髪が原稿の山に崩れ落ちる。
「そう言えばシャム……逃げたか?」
「失敬な!」
バン!と机を叩く音。突然サラの隣の席に小学生のようなちんちくりんが顔を上げる。
「大丈夫かよ?」
カウラがそう言ったのは飛び上がって見せた第一小隊のエース、ナンバルゲニア・シャムラード中尉が頭から被り物をして飛び上がったのが原因では無かった。その目が泳いでいた。基本的に部隊の元気を支えていると言うようなシャムが頭をゆらゆらと揺らして薄ら笑いを浮かべている状況は彼女が相当な疲労を蓄積させているとしか見えなかった。
「アイツもさすがに三日徹夜……それはきついだろ」
吉田はそう言いながらモニターの中の原稿に色をつける作業を再開した。
「サイボーグは便利よねえ。このくらい平気なんでしょ?」
その様子を感心したように見つめるアイシャ。隣では複雑な表情の要が周りを見回している。
「他の連中……どうしたんだ?」
要の一言に再びサラが乱れた赤い髪を整えながら起き上がる。
「ああ、パーラとエダは射撃訓練場よ。今月分の射撃訓練の消化弾薬量にかなり足りなかったみたいだから」
パーラ・ラビロフ中尉とエダ・ラクール少尉もアイシャの部下である。当然、アニメーション研究会のアシスタントとして絵師のシャムや誠の作業を手伝うことを強制させられていた。アイシャはサラの言葉に何度か頷くと、そのまま部屋の置くの端末を使って原画の取り込み作業をしている技術部整備班班長、島田正人准尉のところに向かった。
「ああ、クラウゼ中佐……少佐?あれ?はあー……」
薄ら笑いを浮かべる島田。目の下の隈が彼がいかに酷使されてきたかと言うことを誠にも知らせてくれている。
入り口で呆然としていた誠もさすがに手を貸そうとそのままシャムの隣の席に向かおうとした。
「がんばったのねえ……あと一息じゃない」
島田が取り込みを終えた原画を見ながら感心したように声を上げたアイシャ。それにうれしそうに顔を上げるシャムだが彼女にはもう声を上げる余力も残っていなかった。




