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時は流れるままに 69

 誠達を見つけた吉田は迷惑そうに目を逸らした。その動作に気がついたのか、コックピットに引っかかっている大きな塊が振り向く。

「おう、おはよう」 

 それは法術技術担当士官のヨハン・シュペルター中尉だった。

「どうですか!調整の方は!」 

 膝から下の装甲板の取り付け作業で響く金属音に負けないようにとカウラが大声を張り上げる。

「まあ、なんとかなりそうだ!」 

 ヨハンも叫ぶ。それを無視して作業を続ける吉田。

「こんな物騒なもの。よく同盟上層部が運ぶ許可を出したな」 

 階段を上りながら要がつぶやいた。昨日少しばかりカネミツの運用記録を見てみたが、ほとんど冗談のような戦績に誠は苦笑いを浮かべるしかなかった。

 出撃時に100パーセントの確立で撃墜を記録している。それは切り札的に使われた決戦兵器の宿命かもしれない。被弾率がほぼ0に近いのは慎重派の嵯峨がパイロットを勤めていれば当然の話と言えた。だが、一回の出撃の撃墜数の平均が10機を越えているのは明らかに異常だった。

 特に嵯峨が遼南皇帝に就任した前後、多く単機で戦線に投入され圧倒的な数の敵機を屠ってきた戦歴はほとんど異常と呼べるような活躍だった。

「叔父貴も本気になったのかねえ」 

 階段を上りながらも目はカネミツを眺めていた要の一言。決して笑っていないその目に寒気を感じる誠。

「おう!ついに来ちまったな」 

 そう言って階段の上で待っていたのは嵯峨本人だった。どうにも困ったことがおきたとでも言うような複雑な表情の嵯峨。誠達はそれに愛想笑いで答える。

「おい、よく許可が出たな。どんな魔法を使ったんだ?」 

 駆け上がった要の言葉に首をひねる嵯峨。そしてしばらく要の顔を見つめた後、気がついたように口を開いた。

「ああ、押し付けられたんだよ。実際維持費だけでも馬鹿にならない機体だ。遼南も東和も管理する予算が出ないということでな。それで俺のポケットマネーで何とか維持しろと言われて届いたわけだ。まあ輸送に関する費用はあちら持ちだけどな」 

 そうあっさりという嵯峨。国防予算に明らかに円グラフの一部を占めるほどの維持コストのかかる機体の導入。誠がちらりと管理部のオフィスを見れば、机に突っ伏しているように見える高梨の姿が見えた。

「さすが領邦領主としては最大の規模の嵯峨家というところですか」 

 カウラはそう言うと作業が続くカネミツを見下ろしていた。

 嵯峨家は胡州四大公家の一つ。泉州を中心としたコロニー群を領邦として抱え、そこからの税収の数パーセントを手にすることができる富豪の中の富豪と言える。その当主の地位は今は第三小隊体調の楓の手にあったが、嵯峨本人は泉州公として維持管理の費用が寝ていてもその懐に入る仕組みになっていた。

「ったく……面倒なものが来ちまったよ」 

 嵯峨はそう言うと口にタバコをくわえてハンガーに降りていった。

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