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時は流れるままに 67

「大丈夫ですか?アイシャさん」 

 そう言って誠はカウラのスポーツカーの後部座席に座るアイシャを振り返った。

「駄目、死ぬ、あーしんど」 

 そう言って寮の食堂から持ってきた濡れタオルを額に乗せて上を向いているアイシャ。隣ではその様子を冷ややかに眺めている要がいた。

「どうでも良いけど吐くなよ」 

 そんないつもなら誠にかけられる言葉を受けて、熱い視線を助手席の誠に投げるアイシャ。見つめられた誠は思わず赤くなって前を向いて座りなおす。

「自己管理のできない奴が佐官を勤めるとは……どうかと思うぞ」 

 減速しながらつぶやいたカウラ。目の前には保安隊のゲートが見える。

 誠から見ても明らかに警備体制は厳重になっていた。いつもならマガジンを外した警備部の正式小銃のAKMSを下げている歩哨が巡回することになっているが、普段は歩哨など立てずに警備室でカードゲームに夢中になっている警備部員。

 それが重装備の歩哨はもちろん、いつの間にか警備室の前に土嚢を積み上げて軽機関銃陣地までが設営されていた。

「なんだ?戦争でもはじめるのか?」 

「違うわよ。これからシャムちゃんを首領にして篭城するのよ。猫耳の世界のために」 

「なんだそれ?」 

 くだらないやり取りをしている要とアイシャを無視してカウラはそのまま近寄ってきたヘルメットをかぶっている警備隊員に声をかける。

「例の件か?」 

 誠はここで思い出した。嵯峨の専用機『カネミツ』。シャムの専用機『クロームナイト』。ランの専用機『ホーン・オブ・ルージュ』。この本当の意味でのアサルト・モジュールの名前に足る三機の搬入作業が昨晩行われていたこと。

「まあ、そんなところですよ。しかし、フル装備での警備なんて。重いし……冬でもこれじゃあ暑くって……」 

 そう苦笑いを浮かべる兵士。ゲートが開き部隊の敷地に入るが、明らかにいつもと違う緊張感が隊を覆っているのを感じる。

「お望みの緊張感のある部隊の体制だ。優等生には最高なんじゃないのか?」 

 要のあざけるような笑顔が見える。アイシャはそれどころではないという表情で濡れタオルを折りたたんでいる。誠の目に駐車場の一番手前でジャッキアップしてすべてのタイヤを取り外した乗用車を囲んでロナルドと技術部の兵士達が談笑しているのが目に入った。

 手を上げるロナルド。さすがに吹っ切れたというように、昨日のまとっていた絶望的な雰囲気は消えていた。そのままカウラは数台先に車を止める。

 要に急かされて助手席から降りた誠。満面の笑みでそれを見つめるロナルド。そのつなぎには油がしみこんでおり、周りに照明器具まで用意されているところから見て一晩中彼が愛車の調整をやっていたことを意味しているように見えた。

「よう、元気そうだな」 

 昨日のロナルドからは想像もできないような笑顔に後部座席から降りたばかりの要も複雑な表情を浮かべていた。

「どうです?吹き上がりは」 

 要の言葉に満面の笑みで運転席に乗り込むロナルド。フロントをむき出しのまま彼はエンジンをふかす。

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