時は流れるままに 63
「あのー本気ですか?アイシャさん……あのー」
アイシャに近づこうとする誠を笑いながら遮るサラとパーラ。呼び出しの後、アイシャの端末に誠の母、神前薫の顔が映る。
『もしもし……ってクラウゼさんじゃないの!いつも誠がお世話になっちゃって』
「いいんですよ、お母様。それと私はアイシャと呼んでいただいて結構ですから」
微笑むアイシャをにらみつけるカウラ。烏賊ゲソをかじりながらやけになったように下を見ている要に焦りを感じる誠。
『でも……あれ、そこはなじみのお好み焼き屋さんじゃないですか。また誠が迷惑かけてなければいいんですけど』
そこでサラとパーラが大きくうなづく。誠はただその有様を笑ってみていることしかできなかった。
「大丈夫ですよお母様。しっかり私が見ていますから」
「なに言ってるんだよ。誠の次につぶれた回数が多いのはてめえじゃねえか」
ぼそりとつぶやいた要をアイシャがにらみつける。
「なんだよ!嘘じゃねえだろ!」
怒鳴る要。だがさすがに誠の母に知られたくない情報だけに全員が要をにらみつけた。いじけて下を向く要。
『あら、西園寺のお嬢さんもいらっしゃるのかしら』
薫の言葉にアイシャは画面に向き直る。
「ええ、あのじゃじゃ馬姫はすっかりお酒でご機嫌になって……」
「酒で機嫌がいいのは貴様じゃないのか?」
今度はカウラ。再びアイシャがにらみつける。
『あら、今度はベルガー大尉じゃないですか!皆さんでよくしていただいて本当に……』
そういうと少し目じりをぬぐう薫。さすがにこれほどまで堂々と母親を晒された誠は複雑な表情でアイシャを見つめる。
『本当にいつもありがとうございます』
「まあまあ、お母様。そんなに涙を流されなくても……ちゃんと私がお世話をしますから」
そう言ってなだめに入るアイシャをただ呆れ返ったように見つめているラン。その視線が誠に向いたとき、ただ頭を掻いて困ったようなふうを装う以外のことはできなかった。
「それじゃあ誠さんを出しますね」
「え?」
そういうと有無を言わさず端末のカメラを誠に向けるアイシャ。ビールのジョッキを持ったまま誠はただ凍りついた。
「ああ母さん……」
『飲みすぎちゃだめよ。本当にあなたはお父さんと似て弱いんだから』
そう言ってため息をつく薫。
「やっぱり脱ぐのか?すぐ脱ぐのか?」
ニヤニヤ笑いながら顔を近づけてくる要を押しやる誠。カウラも要を抱えて何とか進行を食い止める。
『お酒は飲んでも飲まれるな、よ。わかる?』
「はあ」
母の勢いにいつものように誠は生返事をした。




