時は流れるままに 57
「私に気を使う必要は無いぞ」
呼ばれたからと言うことで誠を気遣うエルマの言葉だが、さすがにカウラ達は下の階の葬式のような雰囲気に付き合うつもりは無かった。
「気にするなって。個人的なことに顔を突っ込むほど野暮じゃねえから」
鬱陶しい空気を纏ったロナルドの雰囲気がうつっていた誠の肩をバシバシと叩く要。
「そうか?」
要の言葉にランは小さな彼女が持つと大きく見える中ジョッキでビールを飲んでいた。それを心配そうに見つめているエルマ。
「ああ、大丈夫ですよ。クバルカ中佐は二十歳過ぎていますから」
なだめるように言った誠をランがにらみつける。
「悪かったな。なりが餓鬼にしか見えなくて」
ギロリと誠をにらむラン。確かにその落ち着いた表情を見ると彼女が小学一年生ではなく、司法執行機関の部隊長であることを思い知らされる。誠の額に脂汗がにじんだ。
「そんなこと無いですよ!」
ふてくされるラン。その様子をいかにもうれしそうに見つめているアイシャ。彼女にとって小さい身体で隊員たちを恫喝して見せる様子は萌えのポイントになっていると誠も聞いていた。このままでは間違いなくアイシャはランに抱きついて頬ずりをはじめるのが目に見えていた。
「それより、もしかしてエルマさんの誕生日も12月24日なんですか?」
焦って口に出した言葉に後悔する誠。予想通りエルマは不思議な生き物でも見るような視線をまことに向けてくる。
「誕生日?」
「どうやら起動した日のことを指すらしいぞ。まあ、エルマの起動は私よりも二週間以上遅かったな」
カウラの言葉で意味を理解したエルマがビールに手を伸ばす。
「そうだな。私は一月四日に起動したと記録にはある。最終ロットの中では遅い方では無いんだがな」
エルマの言葉を聞きながら誠は彼女の胸を見ていた。確かにカウラと同じようにつるぺったんであることが同じ生産ラインで製造された人造人間であるということを証明しているように見えた。
「あれ?誠ちゃん……」
誠の胸の鼓動が早くなる。声の主、アイシャがにんまりと笑い誠の目の動きを理解したとでも言うようににじり寄ってくる。
「レディーの胸をまじまじと見るなんて……本当に下品なんだから」
「見てないです!」
叫んでみる誠だが、アイシャだけでなく要やサラまでニヤニヤと笑いながら誠に目を向けてくる。
「こいつも男だから仕方がねえだろ?」
「そうよねえ。でもそんなに露骨に見てると嫌われるわよ。ねえ、カウラちゃん」
「ああ……」
突然サラに話題を振られて動揺しながら烏龍茶を飲むカウラ。それぞれの鉄板の上ではお好み焼きの焼ける音が響き始めていた。
「早く!誠ちゃんの烏賊玉、出来てるわよ」
「え?アイシャさん焼いちゃったんですか?」
誠は驚いて自分の空になった材料の入ったボールを見た。その前の鉄板には自分のミックス玉を焼きながら誠の烏賊玉にソースを塗っているアイシャがいる。
「もしかして迷惑だった?」
落ち込んだように見上げてくるアイシャ。それがいつもの罠だとわかっていてもただ愛想笑いを浮かべるしかない誠。
「別にそう言うわけでは……」
そう答えるしかない誠。アイシャの表情はすぐに緩んだ。そしてそのままこてで誠の烏賊玉を切り分け始めた。




