時は流れるままに 52
安堵の空気が室内を包む。要は思わずポケットからタバコを取り出している。楓はぼんやりと正面を見つめ、渡辺とアンは顔を見合わせて微笑んでいた。
「ああ、ちょっと待ってください……カウラ!」
先ほどまでの沈痛な面持ちがすっかり明るい少女のものとなったランが、カウラに向かって声をかけた。
椅子に浅く座ってノンビリとしていたカウラがそんなランに目を向ける。
「私ですか?」
「おう!東都警察の第三機動隊の隊長さんからご指名の通信だ」
そう言ってランは画面を切り替える。誠は思わず隣のカウラの画面を覗き見ていた。見覚えのあるライトブルーのショートカットの女性が映っていた。
「カウラ、先日は久しぶりだったな」
艶のある声に誠の耳に響いた。彼の目の先に要のタレ目が浮かんでいたのですぐに誠は下を向く。
「ああ、エルマも元気そうだな」
あまりにあっさりとした挨拶に茶々を入れようと顔を出していた要は毒気が抜かれたように呆然のカウラを見つめていた。
「同期で現在稼働中の連中にはなかなか出会えなくて……誰か仕切る奴が居れば会合でも持ちたいとは思うんだが」
「難しいな。それぞれ忙しいだろうし」
どうにも硬い言葉が飛び交う様に誠もさすがに首を傾げたくなっていた。人造人間でも稼働時間の長いアイシャ達と比べると確かにぎこちなさが見て取れた。特に同じ境遇だからなのだろう。カウラは誠達と接するときよりもさらに堅苦しい会話を展開していた。
「そうだ、実はこれから豊川の交通機動隊に用事があって近くまで行くんだが……例の貴様の部下達。面白そうだから紹介してくれないだろうか?」
誠と要がエルマの一言に顔を見合わせる。
「ああ」
「隊長命令ならば!」
がちがちとロボットがするような敬礼をしておどけてみせる要。誠も笑顔で頷いた。
「どうやら大丈夫なようだ。それともしかするとおまけがついてくるかも知れないから店は私の指定したところでいいか?」
そう言うとエルマに初めて自然な笑顔が浮かんだ。
「そうしてくれ。どうしてもそちらの地理は疎いからな、では後で」
敬礼をしたエルマの姿が消える。要は口を押さえて噴出すのを必死でこらえている。ランは困ったような笑みを浮かべてカウラを覗き見ている。
「カウラの知り合いか。今の時間に私用の電話……オメー等がやることじゃないな。何かあったと考えるべきだろうな」
そんなランの言葉に誠も少しばかりエルマと言う女性警察官の存在が気になり始めた。




