時は流れるままに 50
「おい!神前曹長!」
明らかに冴えない表情の要を見つけた楓は矛先を誠に向けてきた。
「貴様!お姉さまに何かしたんじゃないのか?」
楓はそのまま真っ直ぐ誠のところに向かってくる。
「してませんよ!何もしてません!」
「そんなはずは無い!お姉さまの顔を見てみろ!誰かに振られて傷ついているみたいじゃないか!どうせお姉さまを捨てて尻軽アイシャの……」
そこまで言ったところで立ち上がった要の腕が楓の口を押さえつける。瞬時に楓の表情が怒りから恍惚とした甘いものへと変化する。それを見て苦笑しながら要は楓を抱えて部屋から出て行った。
「ふう」
大きなロナルドのため息が沈黙した部屋にこだまする。
『やばいですよ!クバルカ中佐!』
誠はすぐにランにコメントを送る。だがランは頭を抱えてじっとしているだけだった。取残された渡辺とアンは、すぐにどんよりとした空気を感じ取った。ロナルドがうつむいてため息の準備をしている。それを察したように二人はすぐに自分の席へと向かう。
「ああ、神前。この前の豊北線の脱線事故の時の現場写真はどのフォルダーに入っているんだ?」
気分を変えようとカウラが誠に言葉をかけてきた。ぼんやりと正面を見つめて脱力しているロナルドをちらりと見た誠。
「ええ、確か……ケーキの形のアイコンを付けて……」
誠は口をつぐむ。そして自分を悲しそうな目で見ているロナルドと視線が合うのを感じた。
『馬鹿!ケーキなんて言ったら』
『大丈夫ですよ、スミスさんはアメリカの方ですから結婚とケーキが頭の中でつながるなんてことはたぶんないですから』
渡辺からのコメント。だが、明らかにカウラに目をやるロナルドの視線は死んだようなうつろな光を放っている。
『じゃあ、あの視線はなんなんだよ!』
ランの怒りのコメント。渡辺とアンは頭を掻いて上官を見つめる。
「戻りました……」
要が落ち込んでいる楓をつれて部屋に戻ってくる。楓はあからさまに哀れむような視線でロナルドを見た。
『わかってないんじゃないですか!楓さんは!』
『そんなこと私に言わないでください!』
渡辺の弁明もむなしく楓はそのまま真っ直ぐにロナルドのところに歩いていった。
「今回は……ご愁傷様です」
「馬鹿野郎!」
楓の言葉を聞くとさすがのランも慌てて持っていたペンを楓の後頭部に投げつけた。




