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時は流れるままに 5

「これは少佐……アイシャ・クラウゼ少佐ですか?」  

 そう言うとエルマが厳しい表情に変わり直立不動の姿勢をとる。あきれたように笑みを浮かべるアイシャ。それをしばらくカウラは見比べていた。

「良いのよ、別に気なんて使わなくても」 

「いえ……クラウゼ少佐の話は教育施設でも良く聞かされましたから。ゲルパルト独立戦争でのエースとして、あのゲルパルト共和国大統領、シュトルベルグ大佐貴下の遊撃部隊での活躍。私の仲間でも知らないものはいませんから」 

 目を輝かせるエルマにカウラは気おされていた。カウラもアイシャもゲルパルトの人造人間計画『ラストバタリオン』で製造された人造人間である。だが、終戦時に育成ポッドの外にいたのは保安隊では運用艦『高雄』の艦長で運行部の部長鈴木リアナ中佐一人だと誠は思っていた。

「アイシャさんはゲルパルト独立戦争に参加したんですか?」 

「教えてくださいよ!オバサン!」 

 誠の純粋な疑問にかぶせてがなりたてる要。握りこぶしを作りながらアイシャがじりじりと要に近づいていく。

「馬鹿をやっている暇は無いんじゃないのか?エルマ……ちょっと急ぎの用事があってな。いくぞ、西園寺!」 

 馬鹿騒ぎが起きることを察知したカウラがそう言って要の手を引いた。唖然とするエルマを置いて駐車場の隅に向かうカウラ。

「要ちゃん」 

 カウラの赤いスポーツカーにたどり着いたアイシャが珍しく米神をひくつかせながら要をにらみつけている。

「なんだよ。急いでいるんじゃねえのか?シャムのことだ。徹夜が続くとまた逃げ出すぞ……と言うか逃げたんだな」 

 助手席のドアを開けた要はシートを倒してすぐに後部座席にもぐりこんだ。何も言えずに同じように乗り込むアイシャ。

「一応言っておくが、アイシャは早期覚醒で実戦に投入されたわけだ。私やサラみたいに自然覚醒まで培養ポットで育った者より稼動時間が長いのは当然だろ」 

 気を利かせてのカウラの一言。すぐにガソリンエンジンの響きが車内を満たす。

「いいわよそんなフォロー。それより久しぶりだったらお茶くらいしていけばいいのに」 

 アイシャの言葉にちょっとした笑みを浮かべるカウラ。車は駐車場を出て冬の気配の漂う落葉樹の森に挟まれた道に出た。

「今でもそう言うことには関心が持てないからな。アイシャほど実社会に対応した期間が長くは無い」 

「何よ!カウラちゃんまでそんなこと言うの?」 

 アイシャの膨れっ面がバックミラーに映っている。誠は苦笑いを浮かべながら対向車もなく続く林道のを見渡していた。

「稼働時間を年齢とすると……8歳か、カウラは」 

 何気なく言った要の言葉にハッとした表情に変わるカウラ。

「ロリね……ロリキャラね」 

 アイシャが非常にいい顔をするので明らかにその様子を眺めていたカウラが渋い表情を浮かべる。

「でも8年で大尉に昇進なんて凄いですね」 

「そうだな、どこかの誰かは三週間で少尉候補生から曹長に格下げ食らったからな」 

「西園寺さん勘弁してくださいよ」 

 誠は自分の降格をネタにされて後ろで窮屈そうに座ることにすでに飽きている要を振り返る。

「そう言う誰かも降格食らったことが無かったか?」 

 カウラの皮肉に要は黙り込むことで答えようとしているように口をへの字に結んで外の枝だけが残された木々に視線を移していた。

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