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時は流れるままに 46

「どうだった?」 

 ロッカーに挟まれた中央の椅子に腰掛けていたのは、前管理部部長で現在は同盟軍教導部隊の設立に奔走しているはずの人物だった。アブドゥール・シャー・シン大尉。すでに来年度の新部隊開設の時には少佐に昇格するのが確定していた。

「どうって言われても……」 

 そう答える誠をシンの隣で見ているのは背広組で着替える必要の無いはずの現管理部部長高梨渉参事官だった。その隣にはため息をつきながら誠から目をそらす島田。そして彼とは仲が悪いはずの管理部経理課主任の菰田邦弘曹長までもが付き合うようにため息をついている。

「シャムが余計なことしなきゃ良いんだがなあ」 

 シンの言葉に誠は最後にロナルドを見た光景を思い出した。

「ああ、それなら今亀吉を追いかけてハンガーに……」 

「おいおいおい!まずいぞ」 

 誠の言葉に口ひげをひねるシン。同じように腕組みしている菰田の貧乏ゆすりが続く。

「でも大丈夫なんじゃないですか?ナンバルゲニア中尉には人を元気にする力がありますから」 

 そう言ってみて誠は後悔した。絶望的表情を浮かべるシン。彼がシャムとは遼南内戦中からすでに十四年の付き合いがあることを思い出した。

「確かに荒療治としてはそれもありかも知れないがな。実は今回の休暇に入る前に電話を貰ってね。凄い自慢話とか婚約者の写真とか送られて大変だったんだぜ」 

 シンの言葉でロナルドの浮かれぶりが想像できた。めったに私的なことを口にしないロナルドがそれだけ入れ込んでいたと言うことになれば、反動での彼の落ち込み方が想像に余りある。

「岡部達はあさって東都空港に到着の予定だからな。ともかくそれまでは出来るだけ静かに接することにしよう」 

 高梨の発案に全員が頷く。

「切れる、分かれるは禁止と言うことで」 

「ああ、結婚式、ケーキ、チャペルなんて言葉も危ないな」 

 菰田と島田の言葉に全員が頷く。その様子を見た高梨が腕の端末を起動させた。

「やっぱり向こうでもその話題で持ちきりだな」 

 スクロールしていくテキスト画面にはリアナの司会で対ロナルド対策を立てている隣の女子更衣室の会議の模様が流れている。

「特に……」 

 シンの視線が誠に向けられる。『ベンガルタイガー』の異名のエースパイロットの視線に耐えかねて逸らした先には島田、振り返れば菰田のにらむような視線がある。

「僕ですか?」 

 誠の言葉に全員が大きく頷いた。

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