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時は流れるままに 45

「じゃあ私は……」 

 アイシャの言葉に手を伸ばす要。

「逃げるなよ!」 

 階段を登ろうとするアイシャを要が羽交い絞めにした。そんな要の気持ちは誠にも予想が出来た。

 アイシャは運行部の所属、保安隊の運用艦『高雄』の副長である。このまま階段を登り、更衣室で勤務服に着替えて、一階の運行部の部屋に入れば欝を体現しているロナルドの顔を一日見なくても仕事になる。

 だが、要にカウラ、誠はロナルドと同じ実働部隊である。端末を見ながら時折ため息をついたり、三人で資料の交換のために声をかけるところをじっとうらやむような目で一日中見られるのはたまったものではなかった。

「オメエ、アタシ等と一緒にいろ!な?」 

 哀願するように見上げる要。だが要はアイシャの性格を忘れていた。自分が心理的に優位に立ったとわかるとアイシャの顔が満面の笑みに満たされる。

「私だけでいいの?サラやパーラも連れてきてあげましょうか?」 

 そんな得意げな口調にさすがのカウラも言葉が無かった。明らかに挑戦的なアイシャの言葉。それに要はまんまと乗せられていく。

「出来れば入れ替わりで来てくれれば……」 

 しかたなくカウラもそう言ってしまった。ハンガーの中央に一人で立っているロナルド。技術部の兵士達は気を使ってわざと周りを避けて通っている。

「でも、アイシャは仕事があるんじゃないの?それにいつも要ちゃんはアイシャちゃんが来ると怒るじゃない」 

 まるでわかっていないシャム。要はその頭にチョップをした。

「痛い!」 

 その言葉がきっかけになったように今度は亀吉の甲羅が要を攻撃する。だが、サイボーグの人工筋肉と新素材の骨格のおかげで逆に亀吉が驚いて逃げ始めた。

「あれ?どうしたの?」 

 そのままハンガーを歩いていく亀吉。その後ろをついていくシャム。その先にはぼんやりと今度はグラウンドに目を向けていたロナルドがいた。

「ヤバ!行くぞ」 

 要はそう言うと階段を駆け上る。誠とアイシャもシャムが天然会話でロナルドを苦笑させてさらに落ち込む光景を想像して要のあとに続いた。

「ああ、お姉さま」 

 階段を登りきる。わざとらしく要に声をかける為に待ち構えていた楓を無視して要は更衣室を目指す。ガラス張りの管理部の部屋では経理や総務の女性隊員が囁きあいながらハンガーの中央に立つロナルドを眺めているのが目に入った。

「触らぬ神に祟りなしなのにねえ」 

 アイシャはそう言うと本気で廊下を走っていく。

「こらこら、廊下は走っちゃだめだよー」 

 いつもの抜けた表情の嵯峨の言葉も無視して四人は駆けていく。

「失礼します!」 

 要達にそう言って誠は男子更衣室に飛び込んだ。そこには珍しい組み合わせの面々が着替えを済ませて腕組みをしながら飛び込んでくる誠を迎え入れた。

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