時は流れるままに 44
「要さん……」
青白い顔をして誠はハンガーの前で泣きそうな顔で要を見つめていた。要、カウラ、アイシャとの昨日の飲み会。いつものようにおもちゃにされた誠は泥酔して全裸になっているところをアイシャに写真に撮られて朝その姿を見せ付けられていた。
「何のことかねえ」
とぼける要に賛同するように頷くアイシャ。カウラは諦めたように視線をハンガーの中に向けた。
「スミス大尉」
気がついたようにカウラが叫んだ。ハンガーで呆然と中に並ぶ05式とM10を見上げている大柄の男、ロナルド・J・スミス特務大尉がぼんやりと立っている。振り向いた彼は少し弱ったような顔で笑いかけてくる。
「やあ、いつも仲がいいんだね……」
何か言いたげな瞳に誠達は複雑な気持ちになる。
「今回のことは……」
カウラの言葉に力無く笑うロナルド。誠はそのまま近づこうとするが思い切り要に引っ張られてよろける。
「何するんですか!」
思わずそう言い掛けて口を要にふさがれた誠。その耳にアイシャが口を寄せる。
「下手に励まそうなんて考えない方がいいわよ!地雷を踏むのは面倒でしょ!」
そこまで聞いて誠はロナルドの休暇を切り上げての原隊復帰が婚約を破棄されたことがきっかけだったことを思い出した。そのことを思い出すと二日酔いでぼんやりした意識が次第に回復して背筋に寒いものが走るのを感じた誠。
「いいねえ、君らは……」
冷めた笑いを浮かべた後大きくため息をつくロナルド。誠は要に引きずられて事務所に向かう階段へと連れて行かれる。何か声をかけようとしていたカウラだが、そちらもアイシャに耳打ちされてロナルドとの会話を諦めて誠達のところに連れてこられた。
「きっついわ。マジで。どうするの?」
アイシャはそう言うと呆然と勤務服姿で整備の邪魔になっていることにも気づかずにアサルト・モジュールを見上げているロナルドを指差した。
「知るかよ!それよりシャムや楓が怖いな。あいつら空気を読む気はねえからな。絶対地雷踏むぜ」
「ひどいな!地雷なんか踏まないよ!」
「わあ!」
要の後ろからシャムの大声が響いて驚いた誠がのけぞる。猫耳が揺れる、黒いショートカットがその下で冷たい風になびく。
「声をかけるなら先に知らせろ!」
さすがにいきなり声をかけられて驚いたように要がシャムを怒鳴りつけた。
「え?だって私ずっとここにいたよ」
すでに勤務服に着替えているシャムの頭には猫耳があるのはいつものことだった。それを見ていた誠の足元で何かが動く。それは小山のようなシャムの愛亀の亀吉だった。魚屋の二階に下宿しているシャムの説明では床が抜けると言われて隊に運んできたと言うことらしい。
潤んだ瞳で誠を見上げる亀吉。誠はその甲羅に手を伸ばすが何か気に入らないのかゴツンと誠の弁慶の泣き所に体当たりをしてきた。
「うっ!」
そのまま打撃を受けた足を押さえてかがみこむ誠。
「ざまあ」
要の無情な言葉に誠は痛みを抑えながらタレ目を見つめた。




