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時は流れるままに 42

 冬の夜。冷たい山脈越えの乾いた北風が髪をなびかせる。小型の赤外線反応式暗視双眼鏡を手にした少年は、じっと東和でも屈指の軍港である新港に浮かぶ貨物船を眺めていた。

「ずいぶんとまあ慎重なことで。さすがに『あれ』を運ぶにはあのくらいの護衛をつけたくなるのもわかるな」 

 そう言って少年は隣の背の高い少女に双眼鏡を手渡した。

「見る必要なんて無いわ。このまま何事も無く豊川市の菱川重工のラボに届くのを見守る。それが任務ですもの」 

 手渡された双眼鏡はアメリカ製の高級乗用車の運転手から顔を出している背広の男に渡された。

「寒くないのか?君達は」 

 男はうすいデニム地のジャケットを引っ掛けている少年を見上げる。少女も薄手のセーターを着込んだだけの格好で冷たい北風の中に立っている。少年、ジョージ・クリタはうれしそうに男から再び双眼鏡を受け取って、煌々と夜間作業で貨物船から運び出されるコンテナを見つめていた。

「厳重な警戒とはこういうことを言うんだろうね。実際、法術関係の捜査機関が先日の同盟厚生局の暴走で再編成を迫られている時期だ。そこにこれだけの法術師の護衛を付けれるとは……さすがだね」 

「感心しているばかりじゃいけませんよ」 

 胸の辺りまでの身長しかないクリタ少年をたしなめるように少女はそう言った。男は正直、彼女の無表情が恐ろしかった。

 法術師の存在は、地球人がこの星の先住民族『リャオ』と出合って数年で植民を始めた地球各国の首脳には知らされていた。そしてそれは入植の中心的役割をになっていたアメリカ軍の研究対象となった。

 その後、第四惑星でテラフォーミング業務とコロニー建設の護衛を勤めていた胡州での旧日本出身の軍人による叛乱や、入植者と先住民の結束した地球からの独立運動により地球は遼州経営を諦めることになった。だがその後も地球の列強はあらぬ差別を受けることを恐れて法術師の存在を無かったことにしたかった遼州諸国と連携して法術関係の技術の無期限凍結に関する条約を結ぶことになった。

 それから三百年。一人の浮かない青年、神前誠の示した法術の力が各国に法術師の存在を思い出させることになった。秘密裏の研究ばかりだった法術関連技術は白日の下に晒され、違法研究を行っていた研究者の断罪を叫ぶ声が日に日に増しているところだった。

 そして今、その秘密研究の成果であるクローン人間ジョージ・クリタと駐留武官である男にも名前を知らされていない少女を大使館の車でこの港の見える小山まで運ぶことになった。

「カネミツねえ……刀の名前を呼称にするとはさすがに胡州人なんだな、嵯峨惟基と言うおっさんは」 

 クリタはニヤニヤと笑いながら港の光に目を向けている。

「でもあなたも同じ遺伝子で作られているのよ、何か感じないの?」 

 少女の言葉にクリタは一度顔を少女に向けるが、変わることの無い少女の表情に飽きて再び港に目を向ける。

「司法執行機関の法術使用の限定措置に関する法律。まあ試案が出来るのもそう遠くないだろうからね。その前に制限に引っかかる可能性のあるアサルト・モジュールを配備する。嵯峨と言う人物は面白い人わね」 

 このとき初めて少女は笑みのようなものを浮かべて港を見つめていた。

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