時は流れるままに 40
「あんまり大きな声出さないでよ……」
そう言うとアイシャはビールを口に運んだ。その様子をにらみつける要の手が怒りに震えている。誠はできるだけ穏便にことが済むようにと願いながら様子をうかがう。
「でも確かに参考にはならないわね。アイシャちゃん達は普通のクリスマスの過ごし方をしたいんでしょ?」
春子の微笑みに苦笑いを浮かべるカウラ。それを見て誠も頭を掻きながら周りを見回す。
「やっぱり恋人と二人っきりって言うのが定番よね」
「あの、春子さん……」
誠は三人の脅迫するような視線を浴びて情けなく声をかける。春子は笑顔で手にしたグラスの中のビールを一息で飲み干した。
「それに至るには私達の経験値が足りないのよ。だから、とりあえず家族や仲間でのクリスマスの過ごし方を体験しようと……」
珍しく焦った調子で言葉を並べるアイシャ。隣で大きくカウラが頷いてみせる。
「そういうことなんで春子さんは何か……」
ようやくタイミングが見付かり誠が声をかける。その後ろではグラスにウォッカを注ぎながら威圧してくる要の姿があった。
「私ねえ」
要の言葉にうつむいて空になったグラスに自分でビールを注ぐ春子。そのままグラスのふちを撫でながら思いにふけるようにうつむいている。
「あんまり良い思い出は無いかな」
そう言ってすぐに春子は誠に目を向けた。東都の盛り場で育ったと言う彼女の話を人づてに聞いていた誠はしまったと思いながら頭を掻いた。
そんな誠を見ると春子は雰囲気をリセットするような笑みを浮かべる。
「やっぱり神前君の話を聞きましょうよ」
春子は弱り果てていた誠を見つめた。誠は照れて要達に目をやってすぐに後悔した。春子に色目を使っていると誤解した三人はかなり苛立っていた。ともかくこの場を収めなければと言う義務感が誠を突き動かす。
「まずはケーキですね」
「それなら私が手配するわよ。なんと言ってもカウラの誕生日なんだから」
ようやく落ち着いてアイシャが自慢げに語るのに白い目を向ける要。カウラはどうでも良いというように突き出しを突いている。
「それとチキン。まあ地球では七面鳥を食べるところもあるそうですが」
「動物ならシャムに頼むか?」
要の言葉にアイシャが大きく首を振る。確かにシャムなら七面鳥を持ってきても不思議ではない。時にはこのあまさき屋にもイノシシや山鳥などの猟で取れた肉や、どこから手に入れたのかわからない珍しい鶏の卵などを持ってくることもある。
「鶏肉で良いんじゃないのか?そんな珍しいものは必要ないだろ」
烏龍茶を飲みながらカウラがつぶやく。アイシャはその言葉に納得するように頷くと誠の次の言葉を待った。




