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時は流れるままに 39

「腹に溜まることを重視すると言うわけか」 

 カウラは頷きながら豚玉の最後の一口をつまんだ。その隣でしばらく目をつぶっていたアイシャ。ゆっくりと目を開く。

「でも、上流貴族のレベルの肉ってそんな……」 

「あのなあ、もう一年半の付き合いだろ?観察力のねえ奴だなあ」 

 呆れたような視線をアイシャに発する要のタレ目。実際この目で何度も見られている誠はその独特の相手を苛立たせる感覚を理解して複雑な表情で睨み返しているアイシャのことを思っていた。

「何言うのよってああ……」 

 要に嘲笑のような言葉を浴びせかけられてアイシャは手を叩いて何かを悟る。そんな様子をほほえましく見守る春子。

「はい!兄貴!」 

 計ったようなタイミングで小夏が誠にジョッキを運んでくる。要とアイシャの間の緊張した空気が解けた。

「貧乏舌だもんね、要さんは」 

 春子に指摘されて要は頭を掻いた。確かに要の悪食は有名だった。ともかくまずいと怒っているのは菰田の味付けが崩壊した料理と、目の前の二人の料理を出されたときだけ。後は鮮度が見るからに落ちている魚だろうが、ゴムのように硬い肉だろうが、素材で文句を言うことはまず無い。そして味付けも量の測り方がおかしくて誰もが文句をつけるところでも平気で食べている要を良く見かけた。

「まあ、否定はしねえよ。西園寺の家は代々そうなんだ。爺さんも食い物に文句をつけたことが無いって言うし、親父もおんなじ。まあ遼南貴族の出のお袋やその甥の血筋の叔父貴なんかは結構舌が肥えてて、いろいろ文句を言うけどな」 

 さらりとそう言ってグラスの酒を飲み干す要。誠はなんとなく納得ができたと言うように出されたビールを飲み干した。

「でも結構な量なんじゃないのか?何百人っているんだろ?食客」 

「ああ、でもお祝い事の季節に最下等の肉ばかり買いあさる貴族なんていねえからな。書生連中もコネがあるから流れ作業で何とかなるみてえだったぞ」 

 要はそう言うと今度は自分で酒を注いだ。

「わかったことがあるわ!」 

 突然アイシャが叫ぶ。いかにも面倒だと言うような顔で要がアイシャを見つめた。

「なんだ?」 

 アイシャをにらみつける要の目をじっと見つめた後、アイシャが口元に勝ち誇ったような笑みを浮かべた。

「要ちゃんの話は全く参考にならないということよ!」 

「だったらしゃべらせるんじゃねえ!」 

 大声で怒鳴りつける要。さすがにその大きな声に誠は驚き、カウラと春子は顔をしかめる。

「だから外道って言うんだよ」 

 厨房の入り口の柱に寄りかかっていた小夏は少し引き気味にそう言うと奥へと消えていった。

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