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時は流れるままに 38

「たぶん……どうだろな、材料の確保とかさあ、実用的な面で昔からそうなっているんだろうな」 

 要はそう言うと誠の注いだ酒を口に運ぶ。

「あら、西園寺さんのおうちの話?素敵だわ、是非聞かせてちょうだいな」 

 そう言って厨房から現れたのはこの店の女将の家村春子だった。その後ろでは明らかに自分の嫌いな要に母を取られたことを悔しがるような表情を浮かべている小夏の姿がある。

「春子さんなら知ってるでしょ?アタシの家には最近は減ったけど結構な数の居候がいること」 

「それは居候とは言わないでしょ?食客しょっきゃくと言う言葉が正しいんじゃないの?」 

 そう言うと春子は振り向いた。彼女の弾んだ表情に誠の頬も緩む。

「小夏、ビール頼める?」 

 紫の着物の袖をたくし上げて隣の空いた椅子を運んできた春子が通路側に席を構えた。

「え?お母さんも飲むの?」 

「いいじゃないの。どうせ要さんのおごりなんでしょ?」 

 そう言って微笑む春子になんともあいまいな笑いを浮かべた後、要は再び話を続けた。

「まあずいぶん前からのしきたりでね、画家や書家、作家や詩人、芸人ばかりでなく政治を志す書生も主義を問わずに抱え込むのがうちの流儀でね。実際、当主が三人書生に殺されているってのに本当によくまあ続いたしきたりだよ」 

 そう言う要の言葉に合わせるようにビールの瓶とグラスを持ってきた小夏。

「あら、神前君のがもう無いじゃないの。要さんのおごりなんだからねえ。小夏」 

 春子はそう言うとビール瓶を持つと静かに誠のジョッキに注いだ。そしてそのまま自分のグラスにも注いで見せる。

「気が利かねえなあ、神前」 

「いいのよ要さん。それで続きは?」 

 誠は要の話を黙って聞いているアイシャとカウラを見た。誠もとても想像もつかない雲の上の世界の話。それを要は再び続けようとした。

「まあ、胡州は独立直後は神道と仏教以外のイベントは全面禁止だった国だってのはお前等も知っていると思うんだけど、まあ世の中飯の種だ。実際摘発なんてやっていない事実上の解禁状態だったからな、アタシの餓鬼のころは」 

 そう言ってグラスを煽る要。満足げに春子は要の言葉に頷いている。

「当然、解禁されたら便乗商売もいろいろ出てきてクリスマスも話題になるようになった。そこでうちでは食客の中でも稼ぎ時のクリスマスに及びのかからない連中がほとんどだからと、クリスマスと正月くらいは力のつくものを食べてもらおうって何代目か前の当主が肉を配ることを考えたんだ」 

「それですき焼き……」 

 アイシャはそう言いながらビールを口にする。誠が中ジョッキを置いた。

「兄貴、注いで来るね」 

 そう言うと小夏は誠のジョッキを持って厨房に消える。カウラも納得したように頷きながら要の言葉が続くのを待った。

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