時は流れるままに 37
要はアイシャ達の瞳に迫られて腕組みをして考えにふけった。
「そんなに深く考えることなの?」
またペースを取り戻してきたアイシャが笑顔で要を見つめる。要の隣の席で烏賊ゲソをかみ締めながら隣の要を見つめていた。
「思い出す限りでは……すき焼きだな」
意外な一言に場が凍った。誠が頼んだアンキモを運んできた小夏も怪訝な表情で要を見つめている。
「それ変!」
叫んで要を指差す小夏。
「変って言うな!それと人を指差すな!」
「だって変だよ!ねえ、兄貴」
「え?ああ……」
小夏に同意を求められて誠はうろたえる。確かにクリスマスとすき焼きがすぐに直結して出てくるということが理解できなかった。それに名家の中の名家である西園寺家の豪華な料理がすき焼きだと言うのは理解できなかった。
嵯峨は食通で通っている。彼が気軽に焼いている目刺しも取り寄せたところを聞いてネットで調べるとべらぼうな価格がついていた。彼の振舞う蕎麦も高級品で知られる蕎麦粉を使用している。それが庶民のお祝いの席のメイン料理のすき焼きとつながる過程が誠にも良く分からなかった。
「すき焼きって……そんな他に物を知らないなら別として……なんだって……」
軽蔑するような笑みを浮かべつつちらちら要に目をやりながらビールを飲むアイシャ。彼女のあからさまな挑発行為が要の機嫌を悪化させる。
「へいへい、変ですよ!確かに親父がああだし、叔父貴もああだしねえ」
要はそう言うとウォッカを再びグラスに注ぐ。しかし、誠は何で彼女がすき焼きと言い出したかに興味を持っていた。
「僕は知りたいですよ」
そうきっぱりと言った誠の言葉に要が口の中の酒を吹きかけた。手で口を覆いながら咳き込む要。
「全く汚いわねえ。誠ちゃんも何で?すき焼き食べたこと無いの?」
アイシャの嘲笑。だが、隣のカウラは豚玉を突きながら考えている。
「そうだな。古い家にはそれに似合う慣わしと言うものがあるらしい。西園寺のすき焼きもそれのようなものなんじゃないのか」
その言葉を聞いて安堵の笑みを浮かべると隣の要を見た。あまり好きではないカウラにフォローされたのが気に入らないのか、ウォッカを含む口元に不満そうな表情が浮かぶ。
「はあ、なるほど……ねえ」
カウラの言葉に納得したアイシャが好奇心に満たされたような顔で要を見つめた。その瞳は黙り込んで酒を飲む要に向けられている。
「いわれとかじゃないと思うぞ。爺さんが肉好きだったってだけの話だからな」
そう言うと頭をひねって言葉を連ねた要。それに引き込まれるようにして誠達は要の言葉を聞くことにした。
「いいじゃないの!隠さなくたって。呪い?それともおまじない?聖書の西園寺家流の解釈で生まれたとか言う話なら素敵じゃない」
「どこがだよ!」
そう叫ぶと空になったグラスを置いた要。誠は自分の中ジョッキを置いて要のウォッカの瓶を手にして勺をした。
「お、おう。有難うな」
慣れない感謝の言葉を口にしながら再び要は話し始めた。




