時は流れるままに 34
着替えながら誠はぼんやりと考えていた。新型機の導入。それによる部隊の変化。誠の配属以来、人の出入りならかなりあった保安隊も、ようやくメンバーが固定できてきて本格稼動状態にあると彼にも思えていた。
だが『カネミツ』導入の知らせの後の部隊には妙な緊張感が漂っていた。
「おい!まだか?」
更衣室の外で要が叫んでいる。彼女はただ作業着を脱いでジーンズを履くだけなので着替えは早い。戦闘用義体は酷寒状況下でも戦闘が続行できるように出来ている以上、要は年中黒いタンクトップで過ごすことも出来た。さすがに人の目が気になるようで、出かけるときはダウンジャケットを着込むこともあるが、たぶん外ではそれを抱えながらニヤニヤと笑っていることだろう。
短気な彼女を待たせまいと誠は急いで作業服のズボンを脱いで私服のジーンズを履こうとする。
「どうした?手伝おうか?」
上機嫌で要が叫ぶ声が聞こえる。誠は焦って上着のボタンを掛け違えていることに気づいてやり直す。
「早くしろよ!」
今度は更衣室のドアを叩き始めた。周りには隣の女子更衣室にいるカウラとアイシャの他に人の気配が無い。そうなれば要の暴走を止める人は誰もいないということになった。さらに焦ってジャケットがハンガーに引っかかっているのに引っ張ったせいで弓のように力を溜め込んだハンガーの一撃が誠の顔面に直撃する。
「なに?誠ちゃんまだなの?」
アイシャの声が聞こえる。たぶん要を煽ろうと悪い笑顔を浮かべている様が誠にも想像できる。上着がちぎれたハンガーの針金に引っかかっている。誠は焦りながらどうにか外そうとする。
「いやらしいことでもしてるんじゃないか?」
「貴様じゃあるまいし」
今度聞こえたのはカウラの声だった。三人の年上に見える女性に着替えを待たれる。これは誠にとっては大変なプレッシャーになっていた。とりあえず深呼吸。そして針金を凝視して上着の裏地に引っかかっている部分に手を伸ばした。
「遅いぞ!」
ついに要が叫ぶとドアを開いて入ってくる。
「デリカシーが無いのかしらね」
「私に聞かれても困るんだが」
ドアの外で微笑んでいるアイシャ。それを見て頭を抱えるカウラ。
「何してんだよ……ああ、引っかかったんだ」
そう言うと要は誠からジャケットを奪い取り力任せに引っ張る。
『あ……』
誠と要。二人の言葉がシンクロした。ジャケットの裏の生地が真っ二つに裂けている。
「やっちゃった……」
うれしそうにつぶやくアイシャ。要はしばらくじっと手にある破れた誠のジャケットを凝視していた。
「コートがあるから大丈夫だろ?どうせ西園寺ならそのくらい楽に弁償できるだろうからな」
そう言うとカウラは腰につけたポーチから車の鍵を取り出して歩いていく。
「要さん……」
誠は泣きそうな顔で上司である要を見上げることしか出来なかった。




