時は流れるままに 32
「おう、帰ってきたか」
実働部隊隊長の椅子には足をぶらぶらさせているランが座って難しい顔で端末の画面を眺めていた。
「おう、姐御……ってやっぱりこれかよ」
部屋に飛び込んでランの後ろに回りこんだ要はがっかりしたように額に右手を当てる。部屋の明かりはランの上の一つを除いて落とされている。静かな室内に誠達の足音だけが響く。
「オメー等も知ってたか。でもなー」
再びランはため息をつく。画面にはランの専用機として配備予定の『ホーン・オブ・ルージュ』の画像が映っていた。
パーソナルカラーの赤と黒で塗装された機体。特徴的な額の角のように見える法術監視型レーダー。画像に映っているのは宇宙での模擬戦闘の様子だった。東和の前世代型のアサルト・モジュールである自動操縦の89式や97式が次々と撃破されていく様は、さすがに本当の意味でアサルト・モジュールと呼べる特機と言わしめた威力を知らしめるものだった。
「結構動くもんだねえ。そう言えば波動パルスエンジンが09式に搭載する奴のボアアップしたバージョンを搭載しているんだって話だよな」
「まあな。出力的には10パーセント増しくらいだが吹き上がりが全然違うからな。さもなきゃこんな機動は取れねーよ」
赤い機体の圧倒的な勝利に終わる模擬戦闘訓練を見ながらランは浮かない顔で誠達を見上げてきた。
「なんだよ、ずいぶん乗り気じゃないみてえじゃねえか。何かあったのか?」
要の言葉を聞くと彼女の顔を見上げる。そしてランは目をそらして大きなため息をついた。その挑戦的な態度に拳を握り締める要を押しのけるとカウラはランの目の前の書類を手に取った。
「『新装備関連予算計上に関する報告』?やっぱり予算がらみの話ですか」
乾いた笑いを浮かべるカウラの言葉に静かにランは頷いた。
嵯峨の『カネミツ』、シャムの『クロームナイト』、ランの『ホーン・オブ・ルージュ』どれも軍の規格を適用すれば確実に失格とされることは間違いない機体だった。開発コストや生産コストがもし半分以下だったとしても採用に踏み切る軍は存在しないと言われる価格。要求される予備部品の精度とそれで発生するロスの多さは改修を依頼されていた菱川重工のトップもためらうほどのものだった。そしてそれを運用状態に持ち込むまでにかかる作業量は想像を絶するもので、それがもたらす仕事環境の変化を予想して島田などはすでに頭を抱えているように見えた。
「返品したらいいんじゃないですか?」
アイシャの言葉に一瞬光明を見出したような明るい表情で顔を上げるランだが、すぐに落ち込んで下を向いてしまう。
「それができりゃー苦労はしねーんだよ……はあー」
再びランは大きくため息をついた。




