時は流れるままに 30
「物騒なものを持ち込むんだ。それなりの近隣諸国への言い訳や仮想敵あるんだろうな。アメちゃんか?中国か?ロシアか?それともゲルパルトの残党や胡州の王党過激派か?理由は威嚇か?最終調整の為の試験起動か?それとも……」
『焦りなさるなって』
要の矢継ぎ早の質問にいつもののらりくらりとした対応で返す吉田。誠は要に目をやったが明らかに苛立っていた。
「先日の遼南首相の東和訪問の際に東都港に入港したあれですか?」
アイシャの言葉に驚いたように要の視線が走る。
「なによ!そんなに責めるような目で見ないでよ。一応これでもあなた達より上官の佐官なのよ。話はいろいろ知ってても当然でしょ?」
慌ててそう言ったアイシャの言葉にカウラは頷くが要は納得できないというように手にしていたみかんをコタツにおいてアイシャをにらみつけていた。
『喧嘩は関心しないねえ……。仮想敵から話をするとねえ、遼南の南都軍閥に動きがある』
そんな嵯峨の一言で空気が変わった。
『遼南帝国宰相、アンリ・ブルゴーニュ候は米軍とは懇ろだからな。彼の地元の南都軍港で何度か法術師専用のアサルト・モジュールの起動実験が行われていたと言う情報は俺もねえ……あれだけあからさまにやられると裏を取る必要が無いくらいだよ』
「実働部隊は蚊帳の外……いや、あのチビ!アタシ等に隠してやがったな!」
そう言うと要は半分のみかんを口に放り込んでかみ始める。明らかにポーカーフェイスで報告書を受け取るランの顔を想像して怒りをこらえている。そんな要の口の端からみかんの果汁が飛び散り、それの直撃を受けたカウラが要をにらみつけるが要はまるで気にしないというようにみかんを噛み締める。
『ああ、お前等には教えるなって俺が釘刺しておいたからな。なあ、クラウゼ』
目の前のアイシャが愛想笑いを浮かべている。カウラも要も恨みがましい視線を彼女に向けた。
「しょうがないじゃないの!隊長命令よ!それに貴方達は他にすることはいくらでもあるんだから」
「駐車禁止の取り締まり、速度超過のネズミ捕り……ああ、先月は国道の土砂崩れの時の復旧作業の仕事もあったなあ」
嫌味を言っているのだが、誠から見るとタレ目の印象のおかげで要の言葉はトゲが無いように見えた。
『喧嘩は止めろよ。それにだ』
「?」
突然言葉を飲み込んだ嵯峨に要は首をかしげた。彼女の背中を指差すカウラ。誠と要は同時に振り向いた。
「どうも……」
そこには中華料理屋の出前持ちの青年が愛想笑いを浮かべながら笑っていた。
「仕方ねえなあ」
要は腰を上げて財布を取り出す。
「三千八百五十円です」
入り口の戸棚の上に料理を並べながら青年が口にしたのを聞くと要は財布に一度目をやった。
「アイシャ二千円あるか?」
「また……」
呆れたような口調でアイシャも財布を取り出す。その光景を見ながらカウラと誠はただニヤニヤと笑うだけだった。




