時は流れるままに 3
「アタシよ……何?逃げた?吉田さんも一緒?ゲーセンとプラモ屋、それに本屋と食べ物屋を頭に入れて巡回……そうね、マリアお姐さんには貸しがあるから警備部の非番の連中もかき集めて頂戴」
そう言うとアイシャは通信端末を切った。その内容は誠にも予想できることだった。
遼州同盟保安隊。司法実働機関として嵯峨惟基の指揮の下、実績を重ねている部隊のレクリエーション機関の存在があった。それは『アニメーション研究会』。会長はアイシャだった。
コミケや近隣豊川市のプラモデルコンテストなどを牛耳るその組織。そこには人気絵師のナンバルゲニア・シャムラード中尉と神前誠曹長の活躍があった。
今日はナンバルゲニア・シャムラード中尉は部隊での勤務と言う名目による執筆活動が佳境を迎えているところだった。もう残すところ一週間も無いコミケの原稿締切日。動物と仲良く遊ぶことが趣味の彼女は三日にわたり宿直室に監禁されて執筆を続けていた。だが、遼南の7騎士に序せられる彼女の身柄を確保することはアイシャのシンパでも不可能なことだった。
「なんだ?シャムが逃げたのか?」
突然の報ににやりと笑って顔を突き出す要。だが、アイシャはすぐに状況打開の策を編み出していた。
「アイシャ!」
カウラが声を出す暇も無かった。すぐに誠の腕を掴みそのまま重い扉を開く。
「アイシャさん……」
その行動で誠はシャムの抜けた穴を自分で埋めようとしているアイシャの魂胆を見抜いた。しかし、何が出来るでもない。要は完全にアイシャのさせるままにしている、カウラにいたっては立ち上がってアイシャの後に続いて開いたドアに続く。
「アイシャさん……」
「大丈夫よ。マリアの姐御はきっとシャムをつきとめるわ」
そう言って誠の手を引いて廊下を進むアイシャ。気になったのか誠が見ている後方では要がニヤニヤ笑いながら付いてくる。
「車は私のでいいんだな」
「お願いできるかしら」
誠の意思とは関係なく、アイシャとカウラの間で話がまとまる。その様子ににんまりと笑う要。
「シャムは毎年逃げてないか?」
「まああの子にじっとしていろって方が無理な話なんじゃないの?」
そう言うとアイシャは訓練場の粗末な階段を降り始める。窓の外を見れば、この訓練場の本来の持ち主である東和陸軍の特殊部隊の面々が整列している様が見れた。
「ご苦労様ねえ」
そう言いながらアイシャは戦闘服のままの誠の手を引っ張って埃が巻き上がるような手抜き工事の階段を下りながら早足で歩き続けた。




