時は流れるままに 29
「誠ちゃん。これだけじゃ無いのよ」
アイシャはそう言うと端末の画面を切り替える。遼南内戦でシャムが愛機とした『クロームナイト』。そしてその前に立ちはだかった遼南共和政府軍所属のランの『ホーン・オブ・ルージュ』。
「確かこの二機は豊川の工場でオーバーホール中でしたよね……隣の……」
誠はそう言うとゲートの外、菱川重工豊川工場の敷地の方に目を向いた。運行部部長鈴木リアナ中佐の夫はこの豊川工場所属のアサルト・モジュール開発部門の特機開発チームのリーダーを務めていた。よく野球部の練習試合で対戦する関係から隣の工場群の建物の一隅に遼南帝国から搬送された『クロームナイト』や『ホーン・オブ・ルージュ』などが最新式の動力部品を搭載して待機中だということは誠も知っていた。
「まあな。ランの07式は東和軍からの借り物だからな。あの餓鬼共の専用機も必要なんだろ」
要はそう言うと目をこする。興奮気味だったのは一瞬で要は完全に興味を失ったとでも言うようにコタツの上のみかんに手を伸ばす。
誠が周りを見渡すとカウラも興味なさそうに誠の顔を眺めていた。おそらくは二人ともその情報を知っていたのだろうと思うと少しばかり誠はがっかりした。
「まあ先月には新港にコンテナが運ばれてたって話しだから。後はタイミングの問題だったんじゃないの?」
アイシャもつまらなそうにファイルを要から受け取るとそのまま棚に返した。
『なんだよ……反応うすいじゃないか』
突然スピーカーから声が聞こえてきた。しかしその声に驚く人物は部隊にはいなかった。
「叔父貴。趣味が悪いぞ」
呆れたように要は戸棚の隣のスピーカーを見上げる。
嵯峨の懐刀と呼ばれる第一小隊二番機担当兼情報管理室長の吉田俊平少佐。彼が部隊のあちこちに隠しカメラや盗聴器を仕掛けていることは公然の秘密であり、嵯峨がそれを利用していることも知られていた。
『ようやく満足が出来る設定になったって開発チームから連絡があってさ。とりあえずそれなら俺が見てやるから持って来いって言う話になったんだよ』
ぼんやりとした嵯峨の顔が想像できてついニヤつく誠。だが、隠しカメラの存在を思い出してすぐにそれを修正した。
「だったらシャムとランの姐御の機体を用意した理由はなんなんだ?」
いつも叔父に対して挑発的な口調になる要を誠はニヤつきながら見つめていた。言葉を発した後、誠の視線に気づいた要は気まずそうに剥いたみかんを口に放り込んだ。
『まあ……シャムの05式乙型の法術触媒機能がいま一つ相性が悪くてね。ヨハンの奴がどうしてもクロームナイトの触媒システムの稼動データが取りたいって言うんだ。それとランの奴の場合は07式はあくまで試作だからな。十分な実験データが取れていない状態で実働部隊に使用されていること自体が異常なんだ』
「異常?この部隊自体が異常なくせに」
叔父である嵯峨の言葉に切り返す要。誠はただ頷きながら彼を見つめているカウラの視線を感じて目を伏せた。
『そんな事言うなよ。一応俺も苦労しているんだぜ』
「苦労ねえ……」
意味ありげに笑う要。誠も乾いた笑みを浮かべるしかなかった。




