時は流れるままに 27
「なんだ?そんなファイル。何か大物でも搬入する予定があるのかね」
そう言って要が明らかに不自然な厚さのファイルを手に取るが、彼女がその表紙をめくったとたん、表情が瞬時に緊張したものへと変わった。
「神前。そこの窓閉めろ」
要の表情からそのファイルの重要性を理解した誠は、ゲートが見える窓に這って行き窓を閉める。外では訓練の対象には選ばれなかった遅番の警備部の隊員が不思議そうに誠を見つめている。
「何かある……とはねえ……」
カウラは要の手のファイルを伸びをして覗き込んだが、すぐに黙り込んだ。
「まあマリアの姐御がわざわざ暇な私達を呼んだってことで予想は出来ていたことなんでしょうけどね」
アイシャがそう言うと出がらしの入った急須にポットのお湯を注ぐ。
「噂は前からあったしなでも今のタイミングか……」
「今だからじゃないの?ランちゃんも配属されたことだし。それを装備して同盟の威信を見せ付けて結束を印象付ける。タイミング的にはばっちりだと思うけど」
要、アイシャの緊張した面持ちと言葉。誠はそのファイルの内容が想像もできず、ただぼんやりの三人の顔を眺めていた。
「ああ、それじゃあ裏取ってみるか……」
そう言って腕の通信端末からコードを伸ばして自分の首のスロットに差し込もうとする要を見てようやく決心が付いた誠は口を挟むことに決めた。
「なんなんですか?何が搬入されてくるんですか?」
誠の言葉に手を止めて呆れたような表情を作る要。カウラは額に手を当てて部下の態度に呆れていた。アイシャもまた呆然として誠をじっくりと眺めている。
「あのさあ、叔父貴の愛機と言えばなんだ?」
手を休めた要の一言。誠は何か考えがある要を意識しながら考えてみる。
「四式改じゃ無いんですか?」
その言葉にカウラは大きなため息をついた。明らかに自分を非難していることがわかるその態度にさすがの誠も頭に来るところがあった。
四式。先の大戦で使用された胡州のアサルト・モジュールと言えば97式特機だが、その後継機として開発を進められた特機。胡州製としては珍しい重装甲を施した駆逐アサルト・モジュールだが、アクチュエーターの出力のわりにメイン動力の反応炉の出力不足で試験機が遼南戦線に投入され、嵯峨の愛機として活躍しただけの知名度の低い機体だった。
戦後、高出力の反応炉を搭載した四式は遼南内戦でも嵯峨の愛機として活躍。現在でもフレーム機構をそのままに現用のアクチュエーターを搭載した機体が保安隊には装備されていた。
「なんですか?新型でも出来るんですか?隊長は現在東和軍の開発の09式をぼろくそに貶してたじゃないですか!07式の配備が中止されて次期主力アサルト・モジュールの研究もほとんどの国で中止している時期に……」
「だからよ。だからこれを出動待機状態に持ち込むのは効果的なのよ」
そう言ってアイシャは端末を操作する。注視していた誠の前に見覚えのある人型兵器のシルエットが浮かび上がった。その姿に誠は恐怖を感じなければいけなくなっていた。




