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時は流れるままに 24

 終業のベルを聞いてもゲートには人影が無かった。定時帰りの多い警備部は今日は室内戦闘訓練で不在、年末で管理部は火のついたような忙しさ。

 出動の無いときの運行部は比較的暇なのはゆっくりみかんを食べているアイシャを見れば誠にもわかる。それでもいつも更衣室でおしゃべりに夢中になっていることが多いらしく、報告書の作成の為に残業した誠よりも帰りが遅いようなときもあるくらいだった。

「みかんウマー!」 

 全く動く気配が無いアイシャがみかんを食べている。隣のカウラも同じようにみかんを食べている。

「しかし……退屈だな」 

 要は湯飲みを転がすのに飽きて夕暮れの空が見える窓を眺めていた。

「誕生日ねえ……」 

「ああ、要ちゃんって誕生日は?」 

 突然アイシャが気がついたように発した言葉に要の動きが止まる。しばらく難しい表情をしてコタツの上のみかんに目をやる要。そして何回か首をひねった後でようやくアイシャの目を見た。

「誕生日?」 

「そう誕生日」 

 見詰め合うアイシャと要。カウラは関わるまいと丁寧にみかんの筋を抜く作業に取り掛かり始めた。誠は相変わらずコタツに入れずに二人の間にある微妙な空気の変動に神経を尖らせていた。

「そんなの知ってどうすんだよ。それに隊の名簿に載ってるんじゃねえのか?」 

 投げやりにそう言うと要はみかんに手を伸ばした。

「そうね」 

 そう言うとアイシャは端末に目をやる。要が貧乏ゆすりをやめたのは恐らく電脳で外部記憶と接続して誠の誕生日を調べているんだろう。そう思うと少し誠は恐怖を感じた。

「八月なの?ふーん」 

「悪いか?誠だってそうだろ?」 

 要はそう言って話題を誠に振る。アイシャ、カウラの視線も自然と誠へと向かった。

「え?僕ですか?確かにそうですけど……」 

 突然の展開に頭を掻く誠。その時背中で金属の板を叩くような音が聞こえて振り返る。

「お前等……」 

 そこにいたのは医療班のドム・ヘン・タン大尉だった。医師である彼は正直健康優良児ぞろいの保安隊では暇人にカテゴライズされる存在である。しかも彼は部隊では珍しい所帯持ちであり、できるだけ仕事を頼まないようにと言う無言の圧力をかける嵯峨のおかげで比較的定時に近い時間に帰宅することが多い。

「ああ、ドクター」 

 アイシャの言葉に色黒のドムの細い目がさらに細くなる。

「ドクター言うな!」

「じゃあなんと言えば……」 

「そんなことは良いんだよ!それよりあれ」 

 ドムはそう言うとゲートを指差す。ゲートは閉じている。その前にはファミリー用ワゴン車がその前に止まっていた。

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