時は流れるままに 23
「こういう時はあれだろ?男が仕切って何とかすると言うのが……」
得意げに語る要の視線が隣の狭苦しそうにひざの先だけコタツに入れている誠に向く。
「へ?」
「そうね、それが一番じゃないかしら」
同意するアイシャの視線がカウラに向く。カウラの頬が朱に染まり、ゆっくりと視線が下に落ちる。
「もう!本当にかわいいんだから!」
そう言ってカウラにコタツの中央のみかんの山から一つを取って彼女に渡すアイシャ。
「ほら!おごりよ。遠慮しないで!」
「あっ……ああ、ありがとう?」
とりあえず好意の表れだと言うことはわかったというように、カウラがおずおずと顔を上げて渡されたみかんを手に取る。そして要とアイシャが薄ら笑いを浮かべながら視線を投げつけてくるのを見て困ったように誠を見つめた。
誠も隣で身体を摺り寄せてくる要を避けながら視線をカウラに向けた。
二人の視線は出会った。そしてすぐに逸らされ、また出会う。
その様子に気づいたのは要だったが、自分が仕向けたようなところがあったので手が出せずにただ頭を掻いて眺めているだけだった。アイシャはすでに飽きてひたすら端末をいじっているだけだった。
「あ!誠ちゃんとカウラちゃんがラブラブ!」
そこに突然響いたデリカシーのない少女の声。誠はゲートの方を振り向いた。
シャムの目が見える。ランよりも若干身長が高いので鼻の辺りまでが誠の座っているところからも見えた。隣に茶色い小山があるのはシャムの一番の家来、コンロンオオヒグマの子供であるグレゴリウス13世の背中だろう。
「シャムちゃんはグレゴリウス君の散歩?」
「うん!」
帰ってきてすぐに顔を出した修羅場での死んだ表情はそこには無く、アイシャの問いに元気良く答えるシャムがあった。書類上は彼女は34歳である。だが一部の噂ではそれ以上の年齢だと言う話も誠は聞いていた。だが、彼女はどう見ても10歳前後にしか見えない。と言うかそれでも精神年齢を下に見積もる必要がある。
「ブウ!」
グレゴリウスが友達のシャムが覗き込んでいる小屋に興味を持って立ち上がる。コンロンオオヒグマは大人になれば10メートルを超える巨体に育つ。2歳の子供とはいえ立ち上がれば優に4メートルを超えていた。
「何にもないよ。グリン。じゃあゲート開けて」
巨体の持ち主のグレゴリウス13世が通るには歩行者用通路は狭すぎた。仕方なくせかせかと歩いていった誠がゲートの操作ボタンを押す。
「ありがとうね!」
シャムはそう言うとそのまま走って消えていく。誠は疲労感を感じながらそのままコタツに向かった。
「タフよねえ。シャムちゃんは」
そう言いながらもう五つ目のみかんを剥き始めたアイシャ。
「まあ元気なのは良いことじゃないのか?」
同じくみかんを剥くカウラ。要は退屈したように空の湯飲みを握って二人の手つきを見比べている。
「どうしたのよ、要ちゃん。計画はすべて誠ちゃんが立ててくれることになったからって……」
「クラウゼさん。いつ僕がすべてを決めると言いましたか?」
異論を挟む誠だが、口にみかんを放り込みながら眉を寄せるアイシャを見ると反撃する気力も失せた。
「……わかりました」
そう言うのが精一杯だった。
「で、参考までにこう言うのはどう?」
アイシャはそう言ってデータを誠の腕の端末に送信する。内容を確認しようと腕を上げた時、終業のチャイムが警備室にも響いてきた。




