時は流れるままに 2
誠が入ってきた重い扉を開いて重装備のカウラと普段の勤務服にピコピコハンマーを持った嵯峨が姿を現した。
「なんだよお前等。たるんでるんじゃねえのか?これじゃあしばらくは俺も前衛に出なきゃならねえじゃねえか」
そう言いながらもニコニコと笑い、奥の棚のコーヒーメーカーに向けて真っ直ぐに歩いていく嵯峨。入り口に立ったまま装備も外さずに渋い表情を要に向けているカウラが気になって誠は自然を装いながらカウラに近づく。
「ドンマイ」
アイシャがデータをまとめながら手を上げてそう言った。その言葉に要はアイシャの後ろに回り後頭部をはたく。
「何すんのよ!」
「ああ、蚊がいたんだ」
「もう十二月よ!いるわけ無いじゃないの!」
明らかに芝居とわかるような怒り方をするアイシャに誠はこめかみに手をやった。二人がにらみ合うのを見てようやくヘルメットを脱いだカウラがつかつかと要に歩み寄る。
「止めておけ、西園寺」
「ああ、隊長さんのお言葉なので……」
そう言うと自分より一回り背の高いアイシャを特徴的なタレ目で見上げて薄笑いを浮かべてみせる要。その態度に明らかに不機嫌になりながら銃の弾倉を入れてあったベストをテーブルに放り投げるカウラ。
珍しく楓が誠に黙って手招きをする。男には興味がないと思っていた上官の指示という事で近づく誠の耳に口を寄せてきた。
「神前曹長だけだ、お姉さま方の説得頼むぞ」
楓が言ったのはそれだけだった。隣で使用した模擬弾の抜き取りを終えた渡辺、ベストを専用のケースにしまったアンが楓を待っている。
「それじゃあお先に失礼します!」
素早く背筋を伸ばして敬礼する楓達。
「おう、ご苦労さん!」
ピリピリとした雰囲気をかもし出しているカウラ達を面白そうに眺めていた嵯峨が振り返って娘に手を振る。
「隊長……」
三人の仲裁を押し付けられた誠は泣きそうな表情で、部隊長である嵯峨の隣の席に座って彼のにんまりと笑う顔を見つめていた。
「コーヒー……どうだ。お前も飲んだ方がいいんじゃないか?疲れただろ」
そんな嵯峨の言葉もにらみ合う要とアイシャを気にしている誠には届かなかった。いつもなら止めにはいるカウラもここ三回続けて要の暴走で閉所訓練で嵯峨を倒せていないこともあって二人を止める様子も無かった。
「いい身分だな。ぬくぬくしたところで指示だけ出しているんだ。気楽だろ」
「へえ、やっぱり上官の命令を聞かないサイボーグは言うことが違うわね」
次第に二人の間の空気が不穏になっていく。そこで突然アイシャの携帯端末が鳴った。




