時は流れるままに 19
「だってさー、ここにこうして詰めているのが歩哨の仕事でしょ?」
「そこのロッカーに銃なら入ってるぞ。それ持って外で立ってろ。そうすれば仕事をしていると認めてやる」
みかんの皮をたたみながらのカウラの言葉にアイシャは頬を膨らませる。
「誠ちゃん!カウラって酷くない!」
「はあ……」
誠はただ苦笑するだけだった。アイシャはその頼りない誠の態度にため息をつくと再び目の前の画面に目を向けた。
「でねでね!さっきの続きだけどね。今日、ランちゃんに頼んで今月の23日から来月の4日まで私達は休暇をとることにしたのよ」
「したのよ?」
怪訝な顔でアイシャを見つめるカウラ。誠も突然のアイシャの言葉に驚いた。
「決定なんですか?」
誠の言葉に笑みを浮かべて頷くアイシャ。カウラはすぐに自分の腕に巻いた端末を起動させて画面を何度か転換させた後、大きくため息をついてアイシャをにらみつける。
「クバルカ中佐の許可も取ってあるな」
勤務体制の組み換えの許可は副隊長であるランの承認が必要だった。逆に言えばランが勤務体制がタイトに過ぎると判断すれば各人の休暇消化の指示が出る。事実、出動後のアサルト・モジュールのオーバーホールなどで超過勤務が続くことが多い技術部のメンバーには何度か休暇消化命令が出たこともあった。
「まあね。有給消化率の低い誰かさんを休ませると言ったらランちゃんすぐにOK出してくれたわよ」
「ランちゃん?」
外からの声に驚いて誠はゲートの方を振り返る。そこには赤いヘルメットが浮かんでおり、その下にはにらんでいるような目があった。
「あ!クバルカ中佐……」
カウラはコタツの中の誠の足を蹴る。それを合図に誠は席を外している要に変わりコタツを出て這ってゲートの操作ボタンまで向かった。
「オメエ等暇そうだな……って西園寺はどうした?」
ゲートの開くのを見ながらデニム地のジャケットを着て小さなバイクにまたがっているランがエンジンを吹かす。
「ええと、要ちゃんならタバコ吸いに行きましたよ。それより休日出勤ご苦労様です!」
そう言ってにんまりと笑うアイシャを見てランは大きくため息をついた。
「仕事を増やす部下ばっかりで大変だよ」
そう言い捨てるとランは工場の内部道路を軽快な音を立てて去っていった。
「でも……ほんとランちゃんてかわいいわよね」
うれしそうなアイシャ。それを見ながら寒さに負けてコタツに向かう誠。だが、コタツにたどり着く直前でゲートに現れた客の咳払いが聞こえてそのままの格好で誠はゲートの操作ボタンへと這って行った。




