時は流れるままに 16
そんなアイシャの雄たけび。誠の背筋を寒いものが走った。そしてその予感は的中した。
アイシャの顔が作り笑顔に切り替わって誠に向かう。
「あの……なんですか?」
同情するように一瞥してゲートを閉じる要。カウラは係わり合いになるのを避けるように二つ目のみかんに取り掛かる。
「誠ちゃんの家の正月って何をするのかしら?」
満面の笑み。そんなアイシャがじりじりと顔を近づけてくる。
「別に大したことは……」
「そうだな。西園寺の家のように一族郎党集まるわけじゃないんだろ?」
カウラはそう言うと剥いたみかんを口に放り込む。だがアイシャはにやけた表情を崩さずに満足げに頷きながら誠を見つめている。
「なるほどねえ、アイシャ。いいところに目をつけたな」
今度はいつの間にか誠の隣にやってきた要が身体を押し付けて耳元で囁いてきた。そのタレ目が誠の退路を断った。
「そんな普通ですよ。年越しそばを道場の子供と一緒に食べて、そのまま東都浅草にお参りして……帰ったら餅をついて……」
「おい、それが普通だって言ったら島田に怒られるぞ」
そう言って要は誠の頭を小突いた。言われてみて確かに父の剣道場に通っている子供達が集まるなどと言うことは普通はないことを思い出して誠は少し後悔した。
「え?誰が怒るんですか?」
警備室の窓の外から島田が顔を出している。後ろにあるのは誠の05式を搭載したトレーラー。運転席では西が助手席の誰かと楽しそうに雑談をしている。
「ああ、何でもねえよ!」
そう言うと要は四つんばいのままゲートを空けるボタンを押す。
「じゃあ明日はよろしくお願いしますよ!」
島田はそう言うと駆け足で車に戻って行った。トレーラーがゆっくりと走り出し、それを見送った要はまた四つんばいで誠の隣に戻ってくる。
「ああ、西園寺。明日は直行じゃないからな。いつもどおりに出勤。技術部の車で現地に向かう予定だからな」
カウラはそう言うと周りを見回した。厳しい表情が緩んでエメラルドグリーンのポニーテールの髪が揺れる様に誠は目を奪われる。
「ああ、お茶ね……」
その様子を見たアイシャが察して奥の戸棚を漁る。要はすぐに入り口のドアの手前に置かれたポットを見つけると蓋を開けて中のお湯の温度を確かめる。
「しっかり準備は出来てるんだな。うれしいねえ」
要はそのままポットをコタツの上に置く。急須と湯のみ、それに煎餅の袋を棚から運んできたアイシャがそれを誠の前に置いた。誠はこの三人がゲート管理をするとなればそれなりの準備をしておかないと後が怖いと思った警備部の面々の恐怖を思って同情の笑みを漏らした。
「入れるんですか?」
そんな誠に三人の視線が集まっている。
「当然でしょ?神前曹長」
そう言ってアイシャがにんまりと笑って見せた。反論は許されない。誠は茶筒を手に取り綺麗に洗われた急須を手にとって緑茶の葉を入れる。
「お茶の葉、ケチるんじゃねえぞ」
「はいはい」
濃い目が好きな要の注文に答えるようにして葉を注ぎ足した後、ポットからお湯を注いだ。
「そんな入れ方してたら隊長に呆れられるわよ」
今度はアイシャである。緑茶の入れ方については茶道師範の免許を持ち、同盟軍幹部の間では『茶坊主』と陰口を叩かれる隊長の嵯峨ならばいちいち文句をつけてくるだろうとは想像が付いた。
だが目の前の三人はただ誠をいじりたいからそう言っているだけ。それがわかっているので誠はまるっきり無視して淡々と湯飲みに茶を注いだ。




