時は流れるままに 107
「ベルガー様のお着替えがすみました」
先ほどのメイド服の女性の声。
「ああ、入っていただけますか?」
神田の言葉でドアが開いた。そしてそこに立つカウラの姿に誠はひきつけられた。
「あ……あの……私は……」
どうしていいのかわからないというように、目が泳いでいるカウラ。そのいつもはポニーテールになっているエメラルドグリーンのつややかな髪が解かれて、さらさらと流れるように白いドレスに映えて見える。
額の上に飾られたルビーの輝きが印象的なティアラ。色白な首元に飾られた同じくルビーがちりばめられた首飾りが見る人をひきつける。
「凄いじゃない、カウラちゃん。ねえ、私にもくれるんでしょ?こういうのくれるんでしょ?」
そんな荘厳な雰囲気を完全にぶち壊して爆走するアイシャ。要ばかりでなく穏やかな様子の神田まで迷惑そうな視線をアイシャに送る。だがまるで彼女はわかっていなかった。
「ほら!誠ちゃん。なんか褒めないと!こういう時はびしっとばしっと何か言うものよ!それで……」
「クラウゼ少佐。落ち着いていただけませんの?」
凛と響く要の一言。いつもは逆の立場だけあり、さすがのアイシャも自分の異常なテンションに気づいて黙り込んだ。
「神前……似合わないだろ」
カウラはようやく一言だけ言葉を搾り出した。頬は朱に染まり、恥ずかしさで逃げ出しそうな表情のカウラ。
「そんなこと無いですよ!素敵です。本当にお姫様みたいですよ!」
誠もアイシャほどではないが興奮していた。胡州貴族やゲルパルトの領邦領主が主催する夜会に出たとしても注目を集めるんじゃないか。そんなパーティーとはまったく無縁な誠だが、赤いじゅうたんの敷かれた階段を静々と下りてくる場面を想像してさらに引き込まれるようにカウラを見つめる。
「本当にお美しいですわよ、ベルガーさん」
タレ目の目じりをさらに下げて微笑みながらの要の言葉。いつもなら鋭い切り替えしが繰り出されるカウラの口元には代りにに笑顔が浮かんでいた。
「いいのかな……私……」
ただカウラは雰囲気に飲まれたように入り口で立ち尽くしていた。
「どうでしょう、要様」
自信があると言い切れるような表情で神田が要を見る。満足そうに頷く要。
「ベルガーさん。とてもお似合いですわね。わたくしもこれならば上司と呼んでもお友達に笑われたりなどしませんわ」
明らかに毒がある言葉だが、すでにカウラは自分を見つめてくる誠やアイシャの視線に酔っているように見えた。ただ頬を染めて立ち尽くす。




