時は流れるままに 105
神田と呼ばれた老紳士はやさしげに頷く。そしてこれまでと違う表情で要を眺めていた。
「そういえば神前曹長にと頼まれていた品ですが」
要の表情が見慣れた凶暴サイボーグのものに変わる。びくりと誠は震えるが、神田が手元の端末に手を伸ばしたときにはその表情は消えていた。
「ちゃんと手配しておきました。合法的に東都に輸入するには必要となる加工が施されていますので実用には……」
「ええ、その点は大丈夫ですわ。機関部とバレルなどの部品についてはわたくしの部隊に専門家がおりますから。そちらの手配で何とかするつもりですの」
「機関部?バレル?」
しばらく誠の思考が止まる。バレルという言葉から銃らしいことはわかる。しかし、ここは宝飾品を扱う店である。そこにそんな言葉が出てくるとは考えにくい。正面のカウラもアイシャもただ呆然と男が画面を表示するのを待った。
「これなんですが……指定の二十世紀のロシア製は見つかりませんでしたのでルーマニア製になります」
金色の何かが画面に映される。誠はまさかと思い目を凝らす。
「悪趣味……」
思わずつぶやいたアイシャの一言で、その目の前の写真の正体を認める準備ができた誠。
小銃である。形からしてマリアの貴下の警備部が使っているAKMSに良く似ている。しかも金属部分にはすべて金メッキが施され、ストックやハンドガードは白、おそらく象牙か何かだろう。そこにはきらびやかな象嵌が施され、まばゆく輝く宝石の色彩が虹のようにも見えていた。
「AIMだな。ストックは折りたたみか」
それだけを言うのがカウラにはやっとだった。三人は呆れたように要に目をやる。
「あら?どうしましたの?だってお二人にも贈り物をしたんですもの。いつも働いてくれている部下にもそれなりの恩を施すのが道理というものではなくて?」
要の笑顔はいつもの悪党と呼ばれるような時の表情だった。誠はこんな要の表情を見るたびに一歩引いてしまう。
ドアがノックされる。
「入りたまえ」
神田の言葉に先ほどカウラの為と指定したルビーのちりばめられたティアラとネックレス、そして純白のドレスを乗せた台車が部屋へと運ばれてきた。
「いかがでしょうか」
ゆっくりと立ち上がった紳士について要、カウラの二人が立ち上がる。額のようなものの中に静かに置かれたティアラと白い絹のクッションに載せられたネックレス。しばらくカウラの動きが止まる。
「ベルガー様。いかがですの?」
そう言ってにやりと笑う要。いつのも見慣れた狡猾で残忍な要と上品で清楚な要。その二人のどちらが本当の要なのか次第に誠もわからなくなってくる。
「ドレスも一緒とは……」
そう言ってマネキンに着せられた白いドレスを眺めるカウラ。
「試着されてはいかが?」
追い討ちをかけるような要の言葉にカウラは思わず要をにらみつけていた。




