時は流れるままに 100
「いつも混むわねえ、この道。地下鉄で正解だったわよ」
アイシャは東都の中心街、造幣局前の出口階段から外界に出ると、目の前を走る国道に目を向けた。そこには歩いたほうが早いのではと思わせるような渋滞が繰り広げられている。
「まあな。アタシがいつ来てもこんな感じだから……って、ここらに来る用事ってあるのか?特にオメエに」
ダウンジャケットを着込んだ要。これから彼女の顔が利くという宝飾ブランドの店に行くというのに、その服装はいつもと変わることが無かった。誠もアイシャもカウラも取り立てて着飾ってはいない。そして周りを歩く人々の気取った調子に誠は違和感を感じながら慣れた調子で歩き始めた要を見つめていた。
「結構ゲームの中の人のイベントとか新作発表会なんかがこのあたりのホールでやることがあるから。ねえ、先生」
にやけた目つきでアイシャに見つめられて思わず頷く誠。要はそれを見るとそのまま迷うことなく広い歩道が印象的な中央通りを歩き始めた。確かにアイシャの言うとおりだったが、大体そう言うときは同好の士も一緒に歩いて街の雰囲気とかけ離れた状況を作り出してくれていて誠にとってはそれが当たり前になっていた。
「でも、本当にこんな格好で良いのか?」
誠の耳元にカウラが口を寄せてつぶやく。誠も正直同じ気持ちだった。
少なくとも公立高校の体育教師の息子が来るには不釣合いな雰囲気。現役の士官でもこんなところに来るのは資産家の娘の要のような立場の人間だろうと思いながらすれ違う人々から視線を集めないようにせかせかと歩く誠とカウラ。
「なによ、二人とも黙っちゃって」
要の隣を悠々と歩いていたアイシャが振り向いてにんまりと笑う。
「だってだな……その……」
思わずうつむくカウラ。アイシャにあわせて立ち止まった要も満足げな笑みを浮かべている。
「なにビビッてるんだよ。アタシ等は客だぜ?しかもアタシの顔でいろいろとサービスしてくれる店だ。そんなに硬くなることはねえよ」
そう言ってそのまま要は歩き始める。調子を合わせるように彼女についていくアイシャ。
「本当に大丈夫なのか?」
誠にたずねるカウラだが、その回答が誠にはできないことは彼女もわかっているようで、再び黙って歩き始める。
次々と名前の通ったブランドの店の前を通る。アイシャはちらちらと見るが、どこか納得したように頷くだけで通り過ぎる。要にいたっては目もくれないで颯爽と歩いている。誠とカウラはそのどこかで聞いたようなブランド名の実物を一瞥しては要から遅れないように急いで歩くのを繰り返していた。
「そこだ」
要が指差す店。大理石の壁面と凝った張り出すようなガラスの窓が目立つ宝飾品の店。目の前ではリムジンから降りた毛皮のコートの女性が絵に描いたように回転扉の中に消える。
「帰りたいなあ……」
カウラはうつむくと誠だけに聞こえるようにそうつぶやいた。




