episode.3
怪河山妖怪本部 [狐の間]
「紀介動かないの。こういう格好はなれないかもしれないけれど、目上の方と会う時は綺麗な格好で会うんだよ。」
紀介はボロボロで土で汚れた服から
淡い青色と金の刺繍がはいった着物に純白の帯を母親に着付けてもらい、長くボサボサの髪を母親の細かな装飾のしてある木櫛でといてもらい後ろで1つむすびにしてもらった。
そうして、新たに貴族の子に生まれ変わったかの様な紀介は大きな鏡の前でくるりと回りため息をつく。
「母さま…これ着なきゃダメかな
動きづらいしなんか恥ずかしいよ…」
母親は紀介のムッと恥ずかしそうな表情を嬉しそうに見つめる
「紀介よあのお方大蛇[オロチ]様に会うというのにあんなボロボロの格好で謁見の間に出る方が恥ずかしいことだ。九尾様があんなに喜んでおられるのだ、少しは胸を張れ。」
光暗は紀介を宥め、紀介の妖力の高さと九尾にここに来る途中聞いた話について考える。
(しかしこやつは妙に妖力が高いな。先程九尾様から息子として本気で育てていくと言われたが、本当なのだろうか…もし人間の世界で妖怪狩りになったらと考えると恐ろしいものだ。
それにこれだけの妖力を有する物ここに居る馬鹿どもが手を出さぬよう見張らねば…)
「なんだよー、皆してー。分かってるって母さまにだって光暗さんにだって恥はかかしたくねぇからな。大人になんなきゃいけねぇんだ。」
「よく分かってるじゃない!出来た子ねぇ、流石私の息子っ」
母親は勢いよく紀介に抱きつき光暗にチラチラと何か言って欲しそうに目をやった。
光暗は九尾が何を言って欲しいのか理解したが何も言わなかった。
何も言わない光暗にブーブーと文句を言う母親を抱きしめ紀介は思いを口にする。
「母さま、光暗さん聞いてくれ。
俺は母さまの息子として九尾の息子としてあるべき姿で妖怪達の前に出たい。母さまはここではどんな事をしてどんな立場にあったかを聞きたい。」
母親は紀介の大人になろうという気持ちを察し息子の気持ちに応えるべく何も言わず光暗に手で指示を出した。
光暗はその支持に従い母親の全てを語り始める。
「………とまぁ、こんな所だな。」
紀介は光暗の話を聞き整理する
母さまは九尾と呼ばれる妖怪の中でもかなり力を持つ妖だということ。
そして光暗さん自身も上級の妖であり、俺の生まれるはるか昔から九尾に使える妖だということ。
妖怪連盟には様々な種の妖が在籍していて[人間妖怪平等派][妖怪至上主義][強者至上主義]など多種多様な思想を持っている
中でも人間妖怪平等派の妖狐と呼ばれる存在の頂点に立つのが九尾であり
さらに妖怪連盟の参謀が母さまだった。
母さまは妖怪連盟の妖怪至上主義の者達を参謀という地位で何とか人間に害をなさぬよう動いていたようだった。
後は色々と光暗さんが昔の母さまの武勇伝を聞かせてくれた。
武勇伝とは言っても妖怪狩りの人間の生き血を啜り、死肉を1人で平らげたなど信じ難い話ばかりだったのでそれとなく流しておいた。
そんな話をしていると扉を叩く音が聞こえた。
怪河山に住む魑魅魍魎の主大蛇の準備が整ったのだろう。
これから、どうなるのか。
紀介はこれからここで生きていけるのか。
見つからない答えを頭の中で探しながら
煌びやかな姿に変身した母親の後ろに就く光暗の横に並んだ。
そして扉を開くと1匹と呼ぶには余りにも人間の姿をした、尻尾の生えた美しい女性の姿があった。
「失礼します、九尾様お久しゅうございます。シロでございます。」
「おお!シロではないか、久しいねぇ元気にしてたかい?そういやアンタ子供が出来たんだって?」
母親はシロという妖狐を見た途端少女の様にはしゃぎ出した。
それを見ていた光暗がンンンっと喉を鳴らす。
ハッと我に返った母親がシロになんの用かと尋ねるとシロもまた照れた表情から真剣な顔で話し始める
「大蛇様の準備が出来ました。謁見の間までお願い致します。それと、童子種の者達が九尾様に合わせろと…」
母親は大きくため息をつく。
恐らく童子種と言うヤツらは母親にとって面倒な相手なのだろう。
紀介はどんな相手であろうと舐められてはいけないのだ母親と光暗の威厳に関わる。
「九尾様、ヤツらの事だきっと謁見の間にもう居る筈です。諦めましょう」
光暗は頭を抱える母親を宥め、紀介は堂々とした面持ちで狐の間を後にする。