episode.2
紀介とその母親[九尾]は
山を抜けたさらに奥の山に訪れていた
紀介は母親が何故こんな所に連れてくるのか凡そ検討がついていた。
前に家によく来ていた母親の友人の家にいくのだろう。
母親の友人達は皆この山に住んでいるらしいが噂では妖の多い山で人間が住むにしては危険な山だと聞いたことがある
もしかすると、母親の友人なのだ本人達も妖かそれに対抗しうる力を持つと言うことなのかもしれない。
(見た目ではそんなに強そうにはみえなかったけどなぁ…)
などと考えていると母親が口を開いた
「紀介もう少しでつくけれど、約束して欲しいことが一つだけあるの。」
母親は神妙な面持ちで言った
そんな母親を見ながらゴクリと息をのみ頷く
「私の友人は皆妖怪なの。分かるとは思うけれど人間をよく思ってない奴らだっている。
だから、私のそばを離れないで貴方はただでさえ妖力が強い、食べられないようにね」
やはり妖怪だったのかという納得する反面、食べられてしまうのではないかとすこし恐怖を覚える
そんな紀介の気持ちを包むかのように母親は紀介を抱きしめる
「大丈夫。私があんたを守るから…」
自分には母親がついていると少しホッとした。
(あの妖怪狩り達を1人で殺す力を持ってるんだ。相当に強いんだろう。母さまから離れないようにしないと)
紀介と母親はそれから少しあるくと妖怪の気配がチラホラとでてきた
中には大きな力を感じる物も居る。
紀介は母親の影に隠れるように歩く。
母親もまた紀介を庇うようにして歩いていく。
そんな母親、九尾を物陰から睨む影もひとつあった。
「あれが生きているのは計算外だ。かなりの人数を送った筈なんだがな…またアイツらを送るか…いや、アイツら如きでは適わぬか。
丁度お荷物も居る事だ、私が直々に手を下すか…くくく」
母親と紀介はその影の正体を知る由もなく歩き続ける。
暫く妖怪達のいる森を歩くと
一際大きな妖気を発する大きな洞窟に着く。
「ここだよ。私の故郷そして、魑魅魍魎たちの巣食う場所。怪河山妖怪本部」
紀介は本部と聞いてギョッとした
妖怪達は統制を取っているのだ。何者かが管理をしその下で動く1つの組織なのだと理解した。
人間でさえ最近になって大名制度が出来て
大名になった[有馬信彦]が統治している。
噂では人を人とも思わず使えるだけ使い殺せるだけ殺す鬼だと言われているが
人間を統治するのでさえそのような鬼にならねば出来ないのだ
どんな妖怪が魑魅魍魎を束ねているのかと震え上がる。
「紀介その恐怖は忘れないで。それは正しい。でも魑魅魍魎を束ねるあのお方は人間にも寛大だから安心して?」
「わ…分かったよ」
分かったよとは言ったものの妖気が濃い。
気を失いそうな程の怒り、憎悪を発している洞窟に住む奴らの主だ。
仮に妖怪大名自身は良い奴でも他にも人間反対派が居るんだ。
怖くない訳がない。
紀介は恐怖を堪えながら母親に付いていくと洞窟から1つの影が動き。こちらに来る
「九尾様、お帰りなさいませ。」
その声は老父のように弱々しいが恐怖を覚える程の妖気を発していた。
「ああ、良く私の帰りが分かったね光暗」
「ええ、九尾様の気配がしたものでお出迎えをと。」
その影に母親は喋りかけると光暗と呼ばれた物が姿を現した。
その姿は紀介の3倍は有ろうかという大きな白銀の狐だった。
紀介はその大きな体、凄まじい妖気を目の前にし怯え後ろへ逃げていった。
「紀介!!待ちなさい!!ここは怪河山だよ!!」
母親は声を荒らげ紀介を止めるが紀介の耳には届かなかった。
それを見ていた1匹の妖怪が紀介の前に現れた。
その妖怪も紀介を殺すのには十分な大きさと妖気を持っていた。
その妖怪は紀介の腹部を噛み付こうと襲いかかる。
「びやぁ」
と情けない声をあげた紀介が死を覚悟した時
ゴキリと、鈍い音を発して押しつぶされる妖怪と
それを踏みつぶす光暗が居た。
「人間よ、慌てるなワシは九尾様が連れてきたお前をとって食ったりはせぬ。ふふふ」
紀介は恥じた。笑われた事にではない、それは大した事では無いのだ
大きな白銀の狐、光暗は母親の事を九尾様と呼んでいた事を思い出し。
母親の事を様を付けて呼んだ者から逃げ
そして、母親の言い付けを破り母親の傍から離れた自分を恥じたのだ。
そんな自分を恥じる紀介に駆け寄り母親は
「紀介、光暗は私の部下だよ。怖がらせてすまないね。アンタは顔が怖いんだよ!」
母親は軽く光暗を叱り
「す、すみません…」
と光暗はシュンと耳をさげた。
そんな様子をみた紀介は命の恩人にとんでもないと首を振る。
光暗は少しホッとして、言葉を続けた
「では、行きましょう。我らが城へ。」
そうして紀介、九尾、光暗は妖気漂う洞窟の中へ消えていった。