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誰ガ為ノ世界  作者: 倉科涼
第一幕 始まりの冒険
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第4話 晩餐会①

3話目です!

物語の大きな転換点まで秒読みですね!私的にも楽しみでございます。

 1週間後、アルフが待ちに待った日がやって来た。孤児院の面々が王城にやってくる日だ。


 あのあと、シークは『すぐ』という言葉にふさわしく迅速に貴族達に話をつけたらしい。アルフが話をした2日後には城への招待の準備が始まった。意外なことに反対意見は1つも挙がらなかったそうだ。

 アルフの方も、最初に話を聞いたイラカが微笑みを浮かべたまま気絶してしまったことを除けば順調に話が進んだ。今日に至るまで、イラカは珍しくひどく落ち着かない様子だったが、エレナを含む子供達は楽しみで仕方がないといった感じたった。


「さあ、アルフ。約束の時間だ。孤児院の皆の案内は任せたぞ?」


 太陽が西の空へと傾き出した頃、すっかり歓待の準備を整えた玄関でシークが言う。


「はい、父上! お任せください!」


 使用人や貴族達からの反対を押しきり、孤児院から城までのエスコートという大任を買って出たアルフは、今にも城を飛び出していきそうなほどに興奮した様子だ。


「アルフ様、まずは落ち着いて、深呼吸です。くれぐれも失礼のないようにするのですよ?こちらが招待したということはこの国の、ひいては国王様の名誉が─」

「うん! わかったよゾーラ!」

「アルフ様ぁ……」

「ゾーラ、お前は話が長いんだよ。アルフ、楽しみなのはわかるが、あまりはしゃぎすぎるなよ?」

「はい、兄上!」


 ゾーラとケッツの忠告を耳にしてもアルフの勢いが衰えた様子はない。ケッツは処置なし、と苦笑いを浮かべた。


「まあ、なんだ。気を付けて行ってこいよ」

「はい! いってきます!」


 言うが早いか、やはりアルフは扉を突き破るようにして飛び出していった。 


 ◆


 城門を出て丘を駆け降りる。門番の鬼族は、今日も凶悪そうな顔をさらに歪ませ笑っていた。


 城を出た勢いそのままに街を駆ける。夕刻になり人通りが多少減ったとはいえ、まだまだ活気は衰えていない。小さな身体を捻るようにして人の隙間を縫って行く。

 いつもの屋台の女主人や、アルフに気づいた者達が驚いた顔をしていたが、今のアルフの眼中には入らなかった。挨拶してくる者には対応したが、今は一刻も早く孤児院に辿り着きたかった。


 街の喧騒を抜け、孤児院への一本道である狭い路地へ入る。

 アルフの心肺は休憩を求めているが、そんなことはお構いなしにラストスパートをかける。大人2人がようやく擦れ違えるような道を全力で駆ける。

 やがて路地の終わりが見えた。短いはずのこの路地が、なぜか今日はいつもよりも長く感じた。


 路地から飛び出すと、そこには木立がある。「子ども達を自然に近い環境で遊ばせてあげたい」というイラカの強い希望で作られたらしいこの木立の中には、アルフ達が『秘密基地』と呼ぶ大きなウロのある大樹もある。

 アルフはここにきてようやく歩調を緩める。孤児院につくまでに乱れた呼吸を整え、万全の体制で案内するためだ。


 空気の澄んだ木立の中を歩く。いろいろなものの匂いが混じり合った街の雑多な空気とは違う、新鮮な空気の匂いがアルフは好きだった。

 そして、目的の場所が見えてきた。木立の中にひっそりと建つ木造の家屋。あの中で皆が待っている。

 知らず、アルフの歩調が再び速くなる。


 扉の前に立ち、一つ深呼吸をする。夕方の匂いのする空気を胸いっぱいに吸い込み、そして吐き出す。


「よし!」


 扉のノッカーが重たい音をたてる。


「こんにちは! アルフです! 城への案内に来ました!」


 孤児院の中に聞こえるように声を張り上げる。

 しかし


「……?」


 いつもならアルフの声がして数瞬後には、子ども達─主にエレナ─の走ってくる足音が聞こえるはずなのだが、今日は聞こえてこない。

 不思議に思ったアルフが再度ノッカーを鳴らそうとしたとき、扉がゆっくりと開いた。


 細く開いた隙間から顔の半分だけを覗かせたのは、紅い瞳の少女──エレナだった。


「こっ、こんにちは。アルフ……」

「うん、こんにちは。どうしたの、エレナ?」


 いつもとは明らかに様子の違うエレナに、アルフは戸惑ってしまう。こんなに控えめな態度をとられたのは初めて会ったとき以来だ。


「えっと、その……ね。あ、あたしの格好見ても、笑わないでね……?」

「? うん。笑わないよ?」

「あ、ありがと……」


 だが、エレナが出てくる気配は一向にない。何かを恥ずかしがっている様子で、扉越しにずっとモジモジしている。


「どうしたのさエレナ。もしかして城に行きたくないの?」

「う、ううん! 違うの! そ、そういうことじゃないんだけど……」


 珍しく煮えきらない態度のエレナに、いい加減じれったくなってきたアルフが扉に手をかけようとしたとき


「エレナおそーい!」

「おそーい!」

「じれったいなぁ、もー」

「押しちゃえ押しちゃえー」

「「「「それー!!」」」」

「ま、待ってみんな! きゃっ」


 エレナの背後から幼い声が複数聞こえてきたかと思うと、勢いよくエレナが押し出されてきた。


「うわっ、とと。あ…………」


 咄嗟にいつものように抱き止めたアルフはエレナの姿に言葉を失う。


「うぅ……。やっぱり変、かな……?」


 アルフの腕の中のエレナは真っ白なドレスに身を包んでいた。いつもは膝までの麻のズボンに、袖の短い襯衣(しんい)という非常に活動的な衣服を着用しているため、こういった格好は新鮮だった。

 「動きにくいから」と、いつも後ろでまとめて上げている髪を下ろしているのもまた違った印象を与える。

 何より、清らかな白い髪、白い肌を持つ彼女にその純白のドレスは似合いすぎていた。まるで


「ううん、エレナ。ちっとも変じゃないよ。すごくかわいい。まるでお姫様みたいだ」

「おひっ……!!」


 自然と口をついて出た言葉に、エレナは妙な声を上げると、長い耳の端まで赤くしてうつむいてしまった。


「エレナよかったねー」

「ずっとそわそわしてたもんねー」

「いちにちじゅー『アルフに笑われないかな。笑われたらどうしよう』っていってたもんねー」


 開け放たれた扉の向こうからニリアたちの声が聞こえた。よくよく見てみると、彼らもいつもとは比べ物にならないほど上等な衣装に身を包んでいた。


「も、もう! みんなうるさい! アルフも離してよ。恥ずかしいったら!」


 湯気が出るのではないかと思うほど顔を上気させたエレナが腕を突っぱって距離をとると、そのまま孤児院の中へと消えていってしまった。

 名残惜しそうにその後ろ姿を眺めるアルフに子ども達が押し寄せる。


「エレナかわいかったでしょ!」

「先生に着させてもらってたんだよ」

「ねね、アルフさま! わたしもかわいい?」

「あっ、ニグ! ダメだよ。あとでエレナにおこられちゃうよ」

「ねえねえ! 僕きまってるでしょ!」


 慣れないおめかしをして城へ行けることで浮かれているのか、いつもより子どもたちの勢いが凄まじい。後ろに立つイラカの微笑みにも、どこか疲れが見られる。


「うん。みんなかわいいし、ばっちり決まってるよ」


 アルフがそう言うと、子ども達は一斉にわっと沸いた。もはや何を言っているのかも聞き取れない有り様だ。

 ややあって、ようやく落ち着きを取り戻してきた頃、ニリアが聞いてきた。


「ねえねえアルフさま、さっきから気になってたんだけど、うしろのお姉さんはだあれ?」

「え? 後ろ? ……うわっ!!」


 振り返ったアルフの目と鼻の先には、毎日顔を会わせているあのメイドがいた。


「お初にお目にかかります。私は王城にてアルフ様付きの側仕えを務めております、クーネでございます。以後お見知りおきを」


 呆けるアルフを他所に、クーネは左足を右足の後ろへ持っていくように引き、右の膝を軽く折る。そして、メイド服のスカートを軽く持ち上げ優雅におじぎをして見せた。

 子ども達は初めて見るカーテシーに何を感じたのか、パチパチと(まば)らに拍手をしだした。


「……くっ、クーネ! いつからいたんだよ!」


 ようやく我に返ったアルフが声を荒らげる。

 それに対して、クーネはいつもと変わらぬ無表情で応対する。


「私は最初からお付きしておりました」

「最初って……もしかして、城を出たときから?」

「もちろんでございます。私はアルフ様付きの側仕えですから」

「べ、べつに付いてこなくたって俺一人で案内できるのに……」

「貴女がイラカ様ですね。本日はアルフ様のご招待を受けてくださり、誠にありがとうございます」

「聞けよ!」

「私がここの『先生』をやらせていただいております、イラカです。今日は招いていただいて光栄です」

「先生まで無視するなよぉ……」


 『大人の会話』を始めた2人にすっかり置いてけぼりをくらっていじけていたアルフだったが、服の裾を引っ張られていることに気づき、そちらを見る。


「ねえアルフさま、もうそろそろお城に行くの?」


 服を引っ張っていたのはニリアだった。彼はもう待ちきれないといったような目でこちらを見上げている。


「そ──」

「そうですね。いつまでもお待たせするわけにもいきませんし、そろそろご案内させていただきます」


 アルフの言葉を遮って答えたのはクーネだった。アルフはそのすました横顔を思わずキッと睨み付けてしまったが、クーネはいつもの無表情だった。


「アルフ様」


 クーネにどう噛みついてやろうか考えていると、今度はイラカから声がかかった。


「アルフ様、エレナを連れてきてはいただけませんか? あの子はきっと、私が呼びに行くよりもその方が喜ぶと思いますので」

「うん、それがいいよ」

「そうだねー」

「エレナよろこぶよ!」

「また赤くなっちゃうかも」

「そしたらまたからかおー」

「「「「さんせー!!」」」」


 子ども達からも口々にやんややんやと言われ、あれよあれよという間に孤児院の中へと引きずり込まれてしまった。


 クーネはその様子を、やはり無表情に眺めていた。

 エレナかわいいよエレナ……。


 私自身、物語を書いたのは初めてですので、登場人物全員が我が子のように愛おしく感じられます。特にエレナと、(まだ登場していないですが)大太刀を持った「あの子」とお喋りな「あの子」、そしてとある国の王様(?)をしている「あの子」はかわいくて仕方がありません(親バカ)。やっぱり設定を練れば練るほど愛が深まりますね……。


 自分に絵心とデザイン力がないことをこんなにも呪ったことはありません。

 いつか彼女たちの姿を見られる日を夢見て。。。

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