第2話 幼き日の記憶②
昨日はちょっとしたアクシデント(このお話の部分のデータが吹き飛ぶ)に見舞われまして、更新することができませんでした。ツラカッタ……
(居られるかはわからないですが)楽しみにしてくださっていた方には申し訳なかったです。この場を借りてお詫び申し上げます。
お詫びと言ってはなんですが、本日1/4は3話更新にします!!
このお話と、正午(予定)、19時(予定)に1話ずつ投稿させていただきます。ぶっちゃけ、私としましても早く物語が大きく動くところまで進めたい所存……。
前置きが長くなってしまいましたが、本編をどうぞ↓↓↓
「お帰りなさいませ、アルフ様」
陽が傾き、街並みが紅色に染まる頃。
アルフが孤児院から城に戻ると、いつも彼を起こしに来るメイドが出迎えた。
「お食事になさいますか? 湯あみになさいますか? それとも…………」
メイドはわざとらしく間をとると、1ミリも表情を動かすことなく続けた。
「ワタクシ、でしょうか?」
彼女はたまに無表情でとんでもないことを言い出すのだ。まだ色というものを知らないアルフは『ワタクシ』の意味がわからなかったが、それでも漠然と何か嫌な予感を感じた。
およそ感情というものが読み取れないので、物心ついたとき以来の付き合いになるアルフだったが未だに距離感がつかめずにいる。
「……ご、ごはんにしようかな」
一日中遊んで疲れていたアルフには、ひきつった顔でそう返すのが精一杯だった。
アルフの返答に、メイドはやはり無表情のまま、「かしこまりました」と応じるのだった。
◆
「父上と兄上は先に食べたの?」
城内の食堂、その中央にある一番大きな長机。アルフ一人で使うには広すぎるそれを、後方にメイドを侍らせて占有する。
父や兄とは生活のリズムが違うし、使用人達は中々一緒の食卓に着いてはくれない。少し寂しい気がしないでもないが、もう慣れたものだ。
後方に─少々苦手とはいえ─メイドが居てくれるだけでアルフには嬉しかった。
「はい。お二方は既に召し上がっております。『後程、訓練場に来るように』との言伝てをお預かりしています」
「わかった。ありがとう」
そんな伝言を頼まれているのなら『ワタクシ』なんてしている暇ないんじゃなかったのか? そもそも『ワタクシ』ってなんだろう? やはりさっきのアレはわかりにくかったが彼女なりの冗談のつもりだったのだろうか。
もう少し感情を見せてくれるようになれば付き合いやすいんだけどなぁ。
エメラダ王城料理長のガラカが腕によりをかけて作ってくれた、アルフ一人で食べるには明らかに多すぎる食事をつつきながらとりとめもないことを考える。
美味しい。
確かに美味しいのだが、あまりにも量が多い。アルフは今まで1度も、ガラカが「一人前です」と言って出してきた料理を食べきったためしがない。アルフが何度残そうとも作る量を変えないガラカもガラカなのだが……。
「……ごちそうさま。ガラカに『美味しかったよ』って伝えておいて」
結局今日も食べきることが出来なかった。さすがに申し訳ない気持ちもあるので、いつも言葉だけは伝えるようにしているのだが果たして彼に気持ちが伝わっているのかと不安になることもある。
「かしこまりました。すぐに訓練場に向かわれますか?」
「うん。腹ごなしの運動にはちょうどいいでしょ」
「私はお二方にその旨伝えて参りますので、ご準備ができましたらお越しくださいませ」
「わかった。着替えたらすぐに行くよ」
◆
「お待たせしました。父上、兄上」
「よい。我々もついさっき来たところだ」
一日のうちでアルフが孤児院訪問と同じくらい楽しみにしている時間がやって来た。
国王である父やその補助を務めている兄王子の執務が終わる夕食後のこの時間、3人は訓練場に集まって剣を交えながら親子水入らずの時間を過ごすのだ。
本来ならアルフが剣の手解きを受けるべき指南役が別にいたはずなのだろうが、父シークの強い希望によりアルフが剣を握るのは基本的にはこの時間だけだ。
ゾーラ曰く、シークが歴代の国王の中でもトップクラスの武闘派で、下手な指南役より余程腕が立つために王国上層部も何も言えなかったそうだ。
「アルフよ。今日も孤児院に行っていたのか?」
「はい!」
「そうか。イラカ達は元気だったか? 町のようすはどうだった?」
「先生もみんなもとても元気でした! 今日は鬼ごっこをして遊んで、最初の一回以外最後まで捕まらなかったです。町もいつも通りの賑わいでした!」
「そうかそうか。それは良いことだ」
父──エメラダ王国現国王シーク・サー・クラインは父と言うよりも寧ろ好好爺のようにアルフの話を聞く。
彼の右手人差し指にはこの国の至宝にして国王の証である『緋の王具』がはめられており、深紅の輝きを放っている。
ふと、ほころんでいたシークの顔に影が射したかと思うと、歯切れ悪く切り出した。
「アルフよ。お前が毎日のように町へ赴き、民と交流し、親睦を深めていることを私は誇りに思う。普段城に籠りきりになっている我々には出来ぬことだからな。しかし、そのだな──」
「……?」
「──ゾーラのことも少しは気にかけてやって欲しいな」
アルフに強く言えないシークを見かねたのか、兄──エメラダ王国第一王子ケッツ・ジル・クラインが口を挟む。
「アイツ、今日──今日『も』かなり凹んでたぞ。毎日とは言わんが少しくらいはアイツの講義を真面目に聞いてやってくれ」
「うぅ……」
ゾーラに対して少しだけ申し訳ない気持ちを抱いていたアルフは苦い顔になる。
「で、でもゾーラの講義はつまらないもん。昔の話を聞いたってどうしようもないし……。第一、講義を聞くよりも実際に見た方が早いと思う!」
「まあ、お前の言いたいこともわかるんだがなぁ。それでも『知っている』者と『知らない』者の差は大きいぞ」
「……?」
「ふふ、アルフよ。今はわからずとも良い。ただ、明日は我々の顔を立てると思ってあやつの講義を受けてやってはくれんか?」
「……はい。わかりました」
シークとケッツに諭され、渋々ながら了承する。
「よし。では、そろそろ始めるとしよう」
シークが訓練場の剥き出しになった地面に杖のように突き立てていた木剣を構える。
その日あったことを3人で話し、その後シークに剣の稽古をつけてもらう。いつもの流れだ。
「……」
「…………」
アルフとケッツは無言で剣を構える。その表情には先程までの弛緩した様子は微塵もない。
剣を構える兄弟からはピリピリとした闘気が漂っている。
今日こそは父上から一本取ってみせる
親子とはいえ、この時間だけは真剣勝負だ。
今までケッツと二人がかりで挑んできて、シークにただの一太刀すら浴びせたことがない。
剣の指南役であり、越えるべき大きな壁として立ちはだかるシークを打ち倒すことがアルフの掲げるもうひとつの目標だ。
「さあ、来なさい」
闘志を剥き出しに両手で剣を握る2人とは対照的に、シークは片手で悠然と構えている。圧倒的強者のみに許された行為だ。
「「行きますっ!!」」
稽古は兄弟の体力が底をつくまで続いた。
この日も、二人の剣がシークを捉えることはなかった。
◆
ベッドに潜り込み、ケッツに言われたことを反芻する。『知らな』くてもその場その場で『知って』いけば何も問題はないだろうに、ケッツは何故ああ言ったのだろうか。
今のアルフには理解できないその問いは、彼の眠気を強めるのに十分だった。
兄にも釘を刺されたことだし、明日くらいはゾーラの講義を聞いてみようかな。
そんなことを思いながらアルフは静かに眠りについた。
前書きで『物語が大きく動くところ』と申しましたが、具体的には序幕を除いた第8話がソレになります。それまではアルフくんとそれを取り巻く人間関係を見ていただけますと嬉しいです。
誤字の指摘等でも頂ければ嬉しいので、感想など是非是非お気軽にお送りくださいませ。遅れたとしても必ず返信させていただきます。
また、私はTwitterの方もしておりますので「倉科涼」で検索していただいてフォローしていただけますと嬉しいです。
なんか今回は前書きも後書きも長くなってしまいました。スミマセン。
私、本来はお喋りなもので、苦情が来ない限りは前書きと後書きの場を借りて雑談(近況報告とか謝辞)なんかしてみようかなと考えております。
そういったことに関してもご意見等あればお気軽に申し付けくださいませ。