第22話 交易都市サイミア③
滑り込み更新!!!
(待っていた方は)お待たせして申し訳ありませんでした!
「なあルノ。さっきのはいったいなんだったんだ?」
「出来れば聞かないでいてもらえると助かるんですが………」
騎士達が去った後、気を取り直して商店通りに向かって歩く2人は話している。
「……まあ、そういうわけにもいきませんよね。はぁ。実はさっきのはアスト王国の騎士と、僕の執事なんです。これでも僕はアスト王国でそれなりの地位にいるのです。今はわけあって家出みたいなことをしてるんですがね」
「ふーん。やっぱりか」
「あれ?気付いてました?」
「昨日の都市入口でのやりとりとか、宿の対応を見れば嫌でも気づくよ」
確信を持ったのはついさっきだが、と心の中で付け足す。
「しかし家出か。なんでまた?」
「う。そこから先は聞かないでください」
ルノが苦虫を噛み潰したような顔になる。余程嫌なことでもあったのだろう。これ以上詮索するのもルノに悪い。そう思ったアルフは素直にうなずいておく。
「わかった。気が向いたら話してくれ」
「ありがとうございます」
それからしばらく2人は無言で歩を進めた。
やがて、あと少しで大通りに出るというところでルノが足を止めた。
「ここです。このお店が都市一番の薬屋さんです」
示された店には看板が掲げられておらず、一度見ただけではなんの店かわからない。壁には蔦が貼り付いており、かなり年季の入った店構えをしていた。
「こんにちはー!」
店の外観を眺めるアルフに構わずルノが店に入っていく。慌ててアルフもその後を追った。
店の中には薬草や得体の知れないものが納められた瓶などがところ狭しと並べられており、閉塞感がある。店内に満ちるツンと鼻にくる匂いはそれらから来るものだろう。
「おばあちゃーん! いる?」
ルノが店の奥の方に声をかけると、幾ばくかの間を置いてからのっそりと一人の老婆が顔を出した。
「まだ耳は遠くなっちゃあいないんだ。そんなに大声出さんでも聞こえるよ」
嗄れた声の老婆の腰は曲がっており顔もしわくちゃだが、その眼光は鋭く足取りもしっかりとしている。
「で? 今日は何の用だい? まさか冷やかしじゃないだろうね」
目を細めてルノとアルフを睨み付ける。
「ん? そっちは見ない顔だね。用があるのはあんたかい?」
「あ、はい。えと、俺の連れが足を怪我してしまったので薬を買いに来たんです」
「なるほどね。いいさ、ちょっと待ってな。すぐに用意する」
それだけ言って奥に引っ込んでいった。
「イー婆はちょっと気難しいけど腕利きの薬師なんですよ」
「聞こえてるよ! 誰が堅物クソババアだって!?」
ルノの補足に店の奥から怒声が返ってくる。
2人は苦笑し、しばし黙って待つことにする。
「待たせたね。ほら、薬だよ」
そう言って差し出されたのは瓶に入った毒々しい紫色の軟膏だった。
「そいつさえ塗っておけば外傷だろうが捻挫だろうが大抵の怪我には効くだろうさ」
「あ、ありがとうございます」
イー婆の迫力に若干気圧されながらアルフが受けとる。
「お代は銅貨5枚だよ。早く帰って連れにつけてやんな」
後半の言葉には優しさが隠っていた。それに気づいたアルフは、思わず微笑んでしまう。
「なんだい。どいつもこいつもニヤニヤと気色の悪い。さっさと金置いて帰んな!」
顔を赤く染め上げたイー婆に半ば叩き出されるように店をあとにする。
「優しい人だな」
「はい。だからこそこの都市一番の薬師なんだと思います」
「ルノ、悪いけど俺は一回エレナのところに戻って薬を渡してこようと思う」
「そうですか。宿までの道はわかりますか?」
「ん? あぁ、わかるけど」
「実は昨日獲った魔石の換金をすっかり忘れていまして、アルフが宿に戻っているうちに済ませてしまおうかと」
「なるほど。じゃあ30分後くらいにまたこのあたりで落ち合おう」
「はい。たぶんいないとは思いますが、違法商品を勧めてくる輩には注意してくださいね」
「あぁ。ルノもな」
2人は手を振り合って別れた。
◆
アルフは独り街を行く。
行き交う人々を眺めながら、昨日感じたわだかまりの正体を探る。
すれ違う人、露店の商人、馬車を操る御者、治安維持に努める衛兵。
そして気付いた。
わだかまりの正体は『寂しさ』だった。
この都市には多くの人間族と、交易のために訪れた僅かばかりの亜人族しかいないのだ。エメラダ王国の街にはほとんど全ての種族が笑いながら共に歩いていた。
場所が違えば息づく種族も違うだろう。そんなことはわかっているはずなのに、なぜか寂寥感に襲われたのだ。
きっと自分が王国のことを引きずって感傷的になっているせいだと言い聞かせ、思いを断ち切るように宿へ向かう足を早めた。
◆
1人宿に残ったエレナはエメラダ王国の王城で発見した本型の魔道具をいじっていた。
「うーん。わっかんかいなぁ。どうやって使うんだろコレ」
パラパラとページをめくって中を改めて見るが、エレナが見たこともない言語でびっしりと記述されているページもあれば、まったく何も書かれていない白紙のページも存在する。
とりあえず魔力を流し込んで反応をうかがってみるかとも考えたが、すぐにその思考を放棄する。
どんな能力かわからない以上、ヘタに起動させると周囲もしくは自分自身に甚大な被害を与える可能性だってあるのだ。迂闊に魔力を流し込むことはできない。
やはり鑑定士のところに持ち込んで、この魔道具に組み込まれている魔方式─魔道具がどのような魔法を発動させるかを決める術式─を見てもらった方が早そうだ。
こんなことならアルフに預けておけばよかったかもしれない。
エレナがそのようなことを考えていると階下─受付の辺り─から甲高い悲鳴と、それに少し遅れるようにゴトッと重たいものが落ちるような音がした
「っ!!!」
エレナはほとんど反射的に本型魔道具をポーチに詰め込み、手に短剣を構える。
足が痛み、長距離を走ることは出来ないが場所の限られた部屋の中だ。敵が部屋に踏み込んできた瞬間に鋭く踏み込んで一撃で倒してしまえばいい。
万が一の時のための逃走経路として、念のため部屋の窓を開けておく。
最初の悲鳴から数分、侵入者のものとおぼしき気配が徐々に近付いてくるのを感じた。それにつれて宿の中の生者の気配が減っていく。
心臓の音がうるさい。
短剣を持つ手にはジットリと汗が滲んでいる。
聞こえてくる足音と消えていく気配の間隔から、侵入者が一つ一つ部屋を改めていることがわかる。そして、それが完全に等間隔であることから敵がかなりの手練れであることがうかがえる。
エレナはここで闘うという選択肢の放棄を決意する。
エレナの第六感が叫びを上げていた。「今は絶対に勝てない」「逃げなければ殺されるだけだ」と。
せめて敵の正体だけは確かめようと思い、窓の棧に足をかけながら部屋の入り口を睨み付ける。
足音がエレナの部屋の前で止まる。
ごくりと唾を飲み下す。その音さえやけに大きく聞こえた。
そして、扉を開けて圧倒的な死の臭いと共に入ってきたモノは─




