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誰ガ為ノ世界  作者: 倉科涼
第ニ幕 冒険の行方
22/49

第20話 交易都市サイミア①

今回から第ニ幕です。

底国を出て、行商人ルノと出会った2人。この後どうなっていくのか、楽しんでいただけたら幸いです。

 交易都市サイミアはサミレア大陸の東部、アーティス底国が沈むトルガ湾のほぼ真北に位置している。


 加えて、大陸最古のエメラダ王国、竜が支配するアーティス底国、東部最大国のアーリン帝国、新興国アスト王国の4ヵ国のほぼ中心に存在していることから、各国の魔道具や食糧、特産品などの交易品が集中、売買が盛んに行われている。

 サイミアは4カ国にとっての貿易基地であり、大陸東部の経済の要なのだ。

 70年前─アスト王国建国前─に商人達の寄り合いから発展し誕生したサイミアは、その経済的な価値の高さから、当時から存在していた3国に利権を狙われていた。あわや戦争かとも思われたが、王具を保有する国々が戦争を起こす危険性を重く捉えた大陸連合が介入。サイミアを永久独立交易都市と認定することで各国の溜飲を下げさせた。

 その後は各国が連携し、サイミア周辺の危険生物の駆除や盗賊の撲滅、駐屯兵の派遣による治安維持活動などを行ってきた。


 以上が、道中の雑談の中でルノが語ってくれたサイミアのおおまかな歴史だ。


 アルフは改めて目の前の都市─サイミアを見下ろす。


 辺りに広がるカルスト地形の一部を削り取りまっ平らに整地された土地は周囲よりも少し低くなっており、周りを囲む丘の上からその街並みを一望することができる。

 

 都市はその外縁を堀に囲まれている。北にある山脈から流れてきている河を利用して造ったらしいその堀の水は、透き通るように清らかだった。

 警備の都合か、都市への入口となる橋は北と南の2ヶ所しかなく、検問待ちの商人達でごった返している。

 

 都市を北から南へ一直線に縦断する幅の広い大通りには所狭しと露天や商店が軒を連ねている。既に日が没し始めていると言うのに、未だにその賑わいが衰える気配はない。寧ろこれからが本番だ、とでも言わんばかりの活気だ。


 大通りから少し横に視線を動かすと、今度は広い間隔を空けて建物が点在している区画があった。


「ルノさん。あの建物はなんですか?」


 気になったアルフは尋ねる。


「『ルノ』でいいですよ、アルフさん。命の恩人に『さん』付けで呼ばれるだなんて、なんだかこそばゆいので」


 はにかんでルノが答える。


「じゃあ、ルノ。俺のことも『アルフ』と呼んでくれたら嬉しい」

「うーん。わ、わかりました。お望みとあらば…」


 ルノは若干気乗りしない様子だったが、アルフの願いを聞き入れてくれた。


 ルノがアルフが指した方向に手を向けて言う。


「さて、あの区画の説明でしたね。あの区画には僕のような行商人や、アルフさ─アルフ達のような旅人が利用するための宿泊施設や、露店の主人の家なんかがあります。宿と宿の間隔が広いのは馬車やその他の乗り物なんかを停めておくためですね」


 ルノが宿屋区画よりも更に街の外周側を示しながら続ける。


「ちなみに、宿屋がある区画よりも奥まったところに行くのはおすすめできません。非合法な商品を扱うようなかなりアブない店が多いので。それに伴って治安も悪くなっています」

「それ、駐屯兵達は知ってるの?」


 幌の中からエレナが問う。


「もちろん知っています。一介の商人に過ぎない僕でも知っているんです。駐屯兵や都市長はもちろん、周辺各国も把握しているでしょう」

「じゃあなんで潰されないんだ?」

「正直に言いますと、そっちの方が儲けられることを知っているからです。お恥ずかしい話、サイミアは『東部の貿易基地』なんて呼ばれていますが、その実、利益の半分近くは非合法な売買によって上げられているんです」


 苦虫を噛み潰したような表情で続ける。


「それに、闇商売を取り仕切る連中は独自のルートで入手した強力な魔道具を保有しているという情報もあります。街中で戦争を始めるわけにもいきませんし、都市上層部や各国のお偉いさん方は黙認するしかないというわけです」


「本当に、悔しい限りです」


 俯いて呟かれた言葉には怒りと無力感が漂っていた。


「……さて! 暗い話はこのくらいにして、日も暮れてきたことですし、さっさと都市の中へ入ってしまいましょう!」


 パッと雰囲気を変えたルノが明るく言う。


「『さっさと』って……今から並ぶのか?」


 検問を待つ商人達の行列を眺めてアルフがげっそりした感じで言う。


「ふふ。大丈夫ですよ。すぐに入れます」


 ルノは自身ありげに答えた。


 ◆


 結論から言うと、顔パスだった。


 まず、検問待ちの列に並んでいた商人達が、近づいてくるルノの馬車を見て一拍の間をおいた後、皆ギョッとした表情を浮かべて順番を譲った。

 続いて、検問を行っていた衛兵までもが驚いたような表情を浮かべ、ルノと数言言葉を交わすだけで都市の中へと入れてくれた。


 商人や衛兵達のただならぬ反応と、宣言通り()()に都市に入れてしまったことにアルフは呆然とすることしかできなかった。


「なあルノ。お前本当にただの商人なのか?」


 名前を聞いたときから抱いていた違和感を恐る恐るぶつける。


「ええ、ただの商人ですよ。ただ、この都市ではちょっと有名なだけです」


 口元に笑みを湛えたルノはそう返すのだった。


 重ねて問いかけようとするアルフだったが、発した言葉は外の喧騒に溶け消えてしまった。

 幌から顔を出し、外の様子をうかがったアルフは少しだけ、懐かしい感覚に襲われた。


 都市の外─丘の上からも見ていたが、大通りの人は多く、もうすぐ夜だというのに非常に賑わっている。軒を連ねる露店から漂ってくる食べ物の匂いはどれも刺激的で、食欲をそそられる。客引きの声や人混みの中ではぐれてしまった人を探す叫び声、馬車の車輪が転がる音や行き交う人々の足音など、鼓膜を震わす音の数々はこの都市がいかに栄えているのかを如実に物語っている。


 アルフはその光景に、かつてのエメラダ王国を幻視した。


 いつも行き交う人々が溢れていた街の通り、城から抜け出したアルフが毎日のように通っていた露店の女主人とその料理、アルフに挨拶をしたり親しげに話しかけてきてくれた街の人々。

 今となっては消えてしまったそれらを、思い出してしまった。


 しかし同時に、なにかモヤモヤと心にわだかまるものを感じた。


 懐かしさから泣き出してもおかしくないような光景に出会ったというのに、なぜそのような感覚に襲われたのかわからない。アルフは必死にその答えを探ろうとする。露店の商人の顔、扱っている商品、それを手にとって眺める客の姿、大通りを行く馬車の装飾や形。一通り眺めてみたがピンとくるものがない。

 

 アルフが更によく見ようと幌から身を乗り出そうとしたとき、馬を操るルノから声がかかった。

 

「そういえば、お2人はしばらくサイミアに滞在するんですよね? 宿は決まっているんですか?」


 アルフは思考と観察を中断してルノの問いに答える。


「いや、決まってない」

「街についてからテキトーに決めればいいかなって思ってたよ」


 横からエレナも口を挟んでくる。


「よろしければ僕の行きつけの宿をご紹介しますよ。迷惑でなければ明日になれば街もご案内しましょう。どうです?」

「願ってもないけど、いいのか?底国に行く予定だったんじゃ…」

「あはは。遅れてしまった時点でどうせ商談はおじゃんです」


 苦笑いを浮かべながら言う。


「それに、何度も言っていますが、今の僕の1番の優先事項は命の恩人に少しでも恩返しすることです」


 そこまで言われて固辞するのも悪いと思ったアルフは


「ありがとう。お言葉に甘えるよ」


と答えた。


「はい! お任せください!」


 ルノは満足そうに笑みを浮かべるのだった。


 大通りから外れ、宿屋が立ち並ぶ区画に入り少し行ったところで馬車は止まった。


「ここです。僕は馬車をとめてきますので、お2人は先に入って少し待っていてください」


 幌から出てきた2人─エレナはアルフの肩を借りている─が見たのはかなり立派な宿屋だった。

 外装は他の建物とあまり大差はなく、サイミア周辺にある岩を加工して作ったと思われるレンガ造りで、かなりどっしりとしており無骨な印象を与える。しかし、窓や屋根、入口やそこに吊り下げられているランタンなど細かいところが非常に丁寧に作り込まれている。

 入口の横にはどこのものだろうか国旗が掲げられており、この宿がその国の威信を背負ってここに店を構えていることがわかる。


「あの国旗はアスト王国のものね」


 隣でエレナが解説してくれる。

 アスト王国はわずか5年前に建国されたばかりのまだ赤子同然の国であるが、高い技術力と大陸連合からの支援の甲斐あってメキメキとその頭角を現している新進気鋭の国だ。


「ルノはアスト王国の有名な商人なのかな?」


 エレナも都市入口での一件を疑問に思っていたのだろう。そんなことを口にする。


「わからないな。後でもう一度本人に聞いてみようか」

「でも、またはぐらかされるだけじゃない? 宿の人に聞いた方が早いと思う」


 2人がそんなことを話し合っていると、馬車の世話を終えたらしいルノがやって来た。


「あれ? お2人とも外で待っていてくれたんですか? なんだか悪いですね」


 2人の疑問になどまるで気付いていないような能天気な調子である。


「いつまでも外にいるのもなんですし、早く中に入りましょう」


 ルノの先導で宿の中に入る。


「いらっしゃいませ。ようこそ『止まり木亭』へ」


 受付とおぼしきカウンターに立っている人間の女性から快活な声がかかる。


「……あら? ルノ様? ルノ様じゃないですか! 今回はいったいどうされたんですか?」


 驚いた様子の受付嬢がルノに尋ねる。


「うん。危ないところを助けてくれた恩人に信頼できる宿を紹介しようと思ってね」


 受付嬢は一瞬、怪訝そうな視線をアルフ達に向けたがすぐに笑顔に切り替わる。


「そうだったんですか。お2人とも、ルノ様を助けていただきありがとうございました。お代はサービスさせていただきますので、どうぞごゆっくりしていってください」

「え、それはさすがに悪いですよ! お代は払わせてもらいます」


 焦ってそう言うアルフだったが、


「いえいえ、そのくらいサービスさせてください。それに、今度からもうちを御贔屓にしてもらえればそれでいいですから」


と、巧くやり込められてしまう。


「あはは。宿の人もああ言ってますし、諦めてもてなされてください」


 ルノが楽しそうに笑う。


「アルフ、ここはお言葉に甘えよう。その代わり、次来る時は余計にお金を払うようにしよう」


 エレナの耳打ちでようやく無理矢理納得したアルフは力なく肩を落とした。


「わかりました。お世話になります」

「はい! 最高のおもてなしをさせていただきます!」


 草臥れた様子のアルフと、花が咲くような笑顔を浮かべる受付嬢が対照的だった。

こちらの事情で申し訳ないのですが、毎日投稿の期間中は投稿時間を(基本的には)19時頃に固定しようと思います。

何かご意見などございましたらお気軽にどうぞ。


感想などいつでもお待ちしております(乞食)

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