挿入話 蠢動
夕暮れの海岸、沈みかける太陽を背に2つの影が立っていた。
「ふぅん。なるほどぉ。サイミアへねぇ」
影のひとつは気だるげに間延びした声で言う。
「報告はそれだけかな? ……あっそ。じゃあもう帰っていいよぉ」
もうひとつの影は一礼して去っていく。
気だるげな影はあくびをひとつすると、赤黒いヤギのような生物に跨がりその場をあとにした。
口元はいびつに歪んでいた。
誰もいなくなった海岸を夜闇が支配した。
◆
闇が満ちる都を男が行く。フラフラと眠たげな足取りだ。
男が歩く都は、人通りが無い。
男が人通りの無い道を選んでいるから、ではない。この都がすでに廃されているためだ。
「随分と上機嫌じゃないか、シララ」
誰もいないはずの暗がりから声が掛かる。
「ふふ。そりゃあねぇ。待ち望んでた情報を仕入れられたんだ。鼻唄のひとつでも口ずさみたくなるってもんだよぉ」
シララと呼ばれた男が相変わらず弛緩した感じで言う。
「それより、ちょうどよかった。実は君にも声かけようと思ってたんだぁ。一緒に来てくれないかな?」
「誰を殺す?」
「おいおい、『殺す』だなんて物騒な言葉、簡単に持ち出さないでくれよぉ。この前拾い損ねた物を回収しに行きたいだけさ」
シララが芝居がかった口調で続ける。
「ま、その過程で不幸にも死者が出るかもしれないけどねぇ」
その言葉で概ね察したのだろう。
「了解した。行くときは声をかけろ」
それだけ言って暗がりから気配が消える。
「そうこなくっちゃね」
「そのお話、私にも一枚噛ませて貰えませんかな?」
シララの背後から別の声が聞こえた。
「おやおや、背後からいきなり声をかけて驚かせるだなんて、あなたも人が悪い」
頬に汗を垂らしたシララが両手を上に挙げ、冗談めかして言う。
「申し訳ありません。つい、いつもの癖で。それで?私もその拾い物に参加しても良いのですか?」
「えぇ、まあ、願ってもないですよ。しかし、何故あなたが?」
「ふふ。いやなに、私も少し拾い物をしようと思いましてね。あなたの邪魔はしませんよ」
「それはそれは。ではお互い頑張るとしましょう」
背後の気配が消えた。
ようやく背後を振り返ったシララはそこに誰もいないことを確認し、独り虚空に呟く。
「思わぬ役者が乱入してきたけど、まあいいやぁ」
そして、その口元をいびつに歪め、目に憎悪の炎を揺らめかせながら続ける。
「さあ、面白おかしく踊ってくれよ。クソガキ」




