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PERFECT GOLDEN BLOOD  作者: 月宮永遠
4章:黄金律の血
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35

 ルイたちは古城の正面に降り立ち、視線をかわした。

「僕は小夜子、二人は陽動。よろしく頼む」

 手短なルイの言葉に、アラスターとアンブローズは頷いた。

 ルイは一つ頷き、城壁を見あげた。地を蹴ったと思ったら、瞬く間に石壁を垂直に駆けあがり、海に面して穿うがたれた窓から難なく侵入を果たした。

 その様子を見て、アラスターはアンブローズに笑みかけた。

「All right……派手にやるか」

 彼は、背負っていた黒いミリタリーバッグをおろした。重々しい音が鳴る。ジップを開けると、溢れんばかりの手榴弾と爆発物――チャフ・グレネード、地上設置型クレイモア地雷、閃光弾、破片手榴弾等が覗いた。

 どれも人間の開発した最新鋭兵器だが、その性能は超自然エネルギーで強化された恐るべきものだ。

「……クレイモアはいらないでしょう」

 ちらと覗いたアンブローズが呆れ気味にいった。

「“汝平和を欲さば、戦への備えをせよ”」

 ラテン語で返したアラスターは、パテ状の爆発物をミリタリーバッグからとりだした。これで正面の扉を破壊するのだ。

 緑青ろくしょうをふいた鉄扉は、こわれかけたように見えるが、女王の魔力で万倍にも強壮された不破の扉である。

 常人には先ず開けられないが、Vならば可能だ。

 アラスターは、扉の表面に可塑かそ性爆薬を貼りつけた。柔らかなパテ状の爆薬は、衝撃によって起爆する特殊雷酸第二水銀――水銀、アルコール、ニトログリセリン、そして神の祝福めぐみ給う聖銀の混合物――を蝋で練り、柔軟剤として清浄なオイルを加えたものだ。

「おら、離れてろよ」

 そういってアラスターも扉から距離を取ると、ショットガンの遊底桿フォアアームをスライドさせ、弾を薬室チェンバーに送りこんだ。照星フロントサイトをあわせ、引き金に指をかける。

 発砲すると共に、轟音が鳴り響き、蒼古そうこな扉は無慚むざんに吹き飛んだ。ぽっかりと口をあけた暗闇から、冷気が流れこんでくる。

「もう少し静かにできませんか?」

 アンブローズに文句をいわれ、アラスターは肩をすくめた。

「陽動だぜ? 攪乱かくらんが目的なのに、音に気を使ってどうするんだよ」

 いがみあいながら、二人は迷うことなく闇のなかへ足を踏みいれた。

 なかはひんやりと冷たく、湿った土と巌の匂いが遍満へんまんしていた。天井には鍾乳石しょうにゅうせきが垂れさがり、左右は石肌の壁に囲まれている。

 殆ど暗闇だったが、Vたちは、自前の暗視能力ナイトビジョンで迷わずに進んだ。

 途中、緊張感の欠片もなく、アラスターが鼻唄をうたいだしたので、アンブローズはこめかみに青筋を浮かべた。が、アラスターの呑気も、近づく瘴気を気取るとかき消えた。

 百メートルも進まぬうちに、わだかまった闇の奥から、不気味な息遣いが聞こえてきた。

「歓迎されてるぜ」

 アラスターの声が暗闇に反響こだました。

「さっさと片付けましょう」

 アンブローズは、M25をベースに設計された愛用の狙撃銃を構えた。銃床は、大変な年輪を経た稠密ちゅうみつな胡桃の木が組みこまれ、美しい飴色に輝いている。側面には金装飾が施され、薔薇のが彫られたものだ。最新鋭を好むアラスターと違って、アンブローズは趣を大切にする男だった。

 猛然と迫りくる瘴気に照準をしぼり、引き金をひく。一・二ミリの鋼鉄の弾が扇状にはじけ飛び、飛びこんできた食屍鬼グールの首が吹き飛んだ。

「ギャギャッ……!」

 鈍い断末魔を放ち、悪鬼は溶け消えた。ざわざわと瘴気が蠢き、続々と新手が現れる。

 ぞっとする数だ。殆ど視界の暴力だったが、二人は怯むことなく、徹底的で容赦のない、的確な速射で撃ち続けた。

 瞬く間に数十もの魔物を片づけ、さらに奥へと進んだ。

 進路を巨大な扉に阻まれた。木の根が複雑にからまっているのを見て、アラスターは火炎放射器をかついだ。ヴィエルがカスタムした特製品だ。その威力たるやすさまじく、消し炭と化した幹を見て、感心に目を瞠り、口笛を吹いた。

「すげぇ威力! さすがだな、兄弟ブロ

 機嫌良さそうに笑うアラスターの隣で、アンブローズは眉をしかめた。不快そうに、宙に舞う炭を手で払いながら、

「全く、雑なんですから」

「まだまだ序の口だぜ」

 扉が開くと、聖銀をしこんだチャフ・グレネードのピンを抜いて、立て続けに放った。五秒後、特殊手榴弾は爆発し、顕微鏡でしか見えないほどの微細な金属片を周囲の空気に撒き散らした。

 その場にいた食屍鬼グールたちは、一瞬にして消え去った。素晴らしい戦果だが、アンブローズは不愉快そうに眉をひそめた。

「品のない」

「品もへったくれもあるかよ!」

 悪態をつきながら、悠々となかへ足を踏み入れた。アンブローズは尚も文句をいいかけたが、石床に黒い染みがぽつぽつと出現するのを見て、身体を素早く半回転させ、引き金を絞った。

 閃光と発泡音。硝煙がたちこめるなか、アラスターとアンブローズは互いの背中を守るようにして、四方から飛びかかる食屍鬼グールを次々と撃ち落とした。

 騒々しい銃撃音が響き渡る。陽動なので、消音機は外してあるのだ。人間ならば耳栓をしないと、鼓膜が破れるほどの大音量である。

 アンブローズは淡々とした表情だが、アラスターは狂気の世界へ入りこみ、熱い血潮を滾らせV特有の闘いの恍惚感に浸っていた。射撃の速度はますますあがっていき、精度もさらに上昇した。

 と、別方面から轟く爆音に、碧眼を煌めかせた。

「おう、千尋たちも景気よくやってるみたいだな。負けてられねぇ!」

 アラスターは好戦的に笑うと、対戦車用のバレットM82を腰()めに構え、遠慮容赦なくぶっ放した。常人であれば連射できる代物ではないが、Vならば問題はなかった。俊敏に動くグールの眉間に、綺麗に散弾をもぐりこませた。

 宝石のように煌めく大量の薬莢やっきょうが、石床にあたって澄んだ音色を響かせる。

 敵を制圧しているが、石壁に大きな罅が入るのを見て、アンブローズは頭痛をこらえるように、こめかみに指をおいて呻いた。

「……小夜子を救出する前に、この城が崩壊しないことを願いますよ」

 割と真面目な彼の本音だった。

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