表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PERFECT GOLDEN BLOOD  作者: 月宮永遠
2章:美しい館(ベル・サーラ)の住人たち
21/42

19

 夏は陽が沈むのが遅い。ゆっくりと黄昏が訪れ、木々の葉は沈みゆく最後の陽光を受け、金色に燃えあがった。

 午後六時。窓のシャッターはようやくもちあがり、硝子に朱金の陽を反射して煌めいた。

 その日、小夜子はルイと共に食事をしていた。一緒に過ごすのは久しぶりで、小夜子もだが、ルイも機嫌が良かった。

 彼は先ほどから、甲斐甲斐しく小夜子に給仕をしている。マッシュポテトをすくおうとするルイの手首に、小夜子は手を置いた。

「もう食べられそうにありません」

 お腹をさする小夜子を見て、ルイは首を傾げた。

「まだ食べられるでしょ?」

「いえ、お腹いっぱいです」

「じゃあ、あと一口だけ」

「ん」

 口の前にスプーンを運ばれて、小夜子は口をあけた。咀嚼する小夜子を、ルイは嬉しそうに見ている。信じられないが、彼にちやほやされることに慣れつつある。

「ごちそうさまでした。もうお腹いっぱいです」

 ルイはほほえんで銀盆を片づけると、また小夜子の傍へ戻ってきた。何をするでもなく隣に座り、気ままに小夜子の髪を撫でる。小夜子が上目遣いに端正な顔をうかがうと、ルイは何かをこらえるような顔つきになった。

「そんな風に見ないでほしい」

「え?」

「僕に襲われたら困るでしょ?」

 小夜子は朱くなったが、否定しなかった。ルイに押し倒されるところを想像してみると、それは魅力的な展開のように思えてしまう。

 妄想の途中で、ぎくりとなった。ふいに、ルイの銀色の瞳の虹彩が紫と金に輝き、彼の背に翼のような黒影が見えた気がしたのだ。

「どうかした?」

 表情を強張らせる小夜子を見て、ルイは首を傾げた。

「……時々、ルイさんの背中に影が見えるんです」

 ルイはぱっと身体を離した。何かに対して身構えている。小夜子は呆気にとられて、ぽかんと口をあけた。

「小夜子は感覚が鋭いんだね。僕の……これは、悪いものではないから、どうか気にしないで」

「嫌なものでないことは判ります。ただ、気になるだけ」

 ルイは困ったように笑った。

「本当に気にしないで。僕のことを怖がらないでくれると嬉しいんだけど」

「怖くありません」

「無理しなくていいよ。なんといっても僕は、君を攫うようにここへ連れてきてしまったし」

 ルイはきまり悪げにいった。小夜子が何かいおうとした時、扉をノックする音が聴こえた。ルイは無視して小夜子の目を見つめてきたけれど、今度は激しく扉を叩かれた。

 ルイは諦めたようにため息をつくと、小夜子の髪を撫でながら囁いた。

「全く、アラスターを殺してやりたいよ」

「え? アラスターさんなの?」

 小夜子も声を潜めて囁き返した。三度目のノックが響いたが、ルイはため息をつくだけで、首を振ると、小夜子の肩を撫でた。

「でるまで、奴はノックをし続けるだろうな。追い払ってくるよ」

 そういってルイは苛立たしげに大股で入り口までいって、荒々しく扉を開けた。開口一番に、

「うせろ」

 そういってルイは唸った。しかし、アラスターがいつになく強張った表情をしているので、険を和らげて訊き返した。

どうした(カチュ)?」

すまん(デゾレ)、ウルティマスがお呼びだ(プリゾンス)

 アラスターはルイの背後の部屋を覗きこみ、小夜子を見て手をあげた。ルイは不快げに眉を顰めると、腕を組んでアラスターの視線を引き戻した。

「なんて?」

「話は礼拝堂でする」

「今いえよ」

 不機嫌そうにルイがいうと、アラスターは思念で伝えてきた。至急を要する食屍鬼グールの問題だと判り、ルイは深く息を吐いた。

「すぐにいく。五分待ってくれ」

 アラスターは頷くと、扉をしめた。ルイは不安そうにしている小夜子の前に戻ると、片膝をついて彼女の手をとり、下から顔をのぞきこんだ。

「ごめん、小夜子。すっごく嫌だけど、上司に呼ばれたから、でかけないといけない」

「どこにいくんですか?」

「先ず上司から話を聞いて、そのあとはいつも通り、化け物退治かな」

 状況が判らず、小夜子は不服げに押し黙った。彼等が、小夜子には判らぬフランス語で会話したことも、やましい何かがあるからではないかと勘繰ってしまう。

 無言の不満を察し、ルイは、小夜子の膝に置かれた手をそっと握った。

「食事の途中なのに、ごめん。レディをおいていくなんて、本当に礼儀に反するけど……どうしてもいかないといけなくて」

「……判りました」

 小夜子は力なく頷いた。がっかりしたことを隠すことができなかった。今夜は久しぶりに会えたのに、今度はいつ会えるのだろう?

「小夜子……」

 ルイは両手で小夜子の頬を包んだ。美貌に浮かんだ狂おしげな表情を見て、小夜子は目を瞠った。銀色の虹彩に、紫と金の粒子が散っている。

「ルイ……?」

 キスされそうになり、咄嗟にルイの唇を手で覆おうと、ルイは貪るように小夜子を見つめてきた。手をゆっくり掴んではがし、掌に唇を押し当てる。

「好きだよ……」

 心臓がどっと音を立てた。小夜子が身動きできずにいると、ルイは情熱を抑制するように身体を引いた。

 起きあがると、視線を伏せたまま部屋に入っていき、黒いトレンチコートを羽織って戻ってきた。そのまま玄関へいこうとする背中に、小夜子は焦ったように声をかけた。

「あの、気をつけて」

 ルイは足を止めると、小夜子を振り向いて笑顔を見せた。

「ありがとう。さっさと片づけて、小夜子のもとに戻ってくるよ」

 そういって静かに扉をしめた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=794219345&s
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ