ファーストコンタクト
骨も無くなったネクロマンサーはこれで死んだのか。・・・・予備の骨がどこかにありそうなんだけど。
「仮にね、どこかに骨を隠しててもネクロマンサーが復活することはないよ。あいつのその魔法はもうないから。」
俺の不安を察した才華の言葉は確信をもった発言だった。
「ないってのがよくわからんだけど。」
「そのままの意味だよ。とにかくあいつが使うあの死体蘇生、操作の魔法はあらゆる世界を通じて存在しない。あいつが万が一、転生してもその魔法は使えない。また新たな術式で作り直す必要がある。」
「そうなんだ。って言いたいけど、詳細を知りたい。」
才華と愛音は事態を理解しているようだけど、俺だけ蚊帳の外状態。
「もうなにがなんだかわからん。シクが生き返ったのは願いの力なのはわかるけど、魔女?その赤くなった髪の毛、食べた?なないろ?ななしょくだっけ?相変わらず2人だけの共通認識で俺だけ蚊帳の外。」
「そうね。どこからはなせば」
愛音が困った顔をする。
「まずは私との出会いからでしょうね。」
ネクロマンサーとは違う女性の声が響きわたり、クロスティよエルージュが警戒態勢となる。周囲には誰もいない。何処だ?誰だ?
動揺している俺を後目に愛音と才華は空を見上げた。見上げると女性が空から降りてきて、目の前に着地した。
白色ブラウス、赤色膝上スカート。黒のニーソックス。赤色ハイヒール。左肩口には赤色の紐がまかれている。黒色の胸当てに弓を背負い、腰元に矢筒。魔法より弓道のイメージ。沙緒里さんや良子さんくらいの年齢に見える。二つ結びの髪は胸近くまで伸びている。その髪の色は赤。
赤髪・・・・魔女なのか?流れ的に魔女か。愛音がエルージュとクロスティの警戒を解かせた。
「ずいぶん伸びたわね。」
髪の色より、長さを気にしている魔女。
「伸びるのは聞いてなかったんだけど。」
才華は口を尖らせながら腰元まで伸びた髪を弄っている。
「伸びても微々たるものだから、言わなかったのよ。そこまで伸びるのは才能ね。怖い怖い。」
愚痴に動じず微笑み返す魔女。・・・・・才能ですか。
「それで、今日はどんな要件なの?」
「新しい魔女の誕生を祝福にね。」
!どう考えても才華は魔女になった。これしかないよな。それも重要なことだがまずは。
「そんなことより、この人だれ?」
俺はつい口を挟む。俺だけ置いてけぼりなのをなんとかしてくれ。
「魔女」
「『ななしょく』の1人ね。」
「イディ・ラーン、君は相変わらずね。」
才華、愛音、魔女のイディが順に答えていく。えーと『七色』の魔女のイディ・ラーンね。・・・・相わからず?
「俺、会ったことあるの?」
「今日で3回目」
?才華よ。本当かそれ?全く記憶にないんだけど。
「1回目はコアに刺されたときだから、在人は一瞬死んでた。」
そうなの?刺された後にそんなことが。
「そのお返しをもらったときが2回目ね」
1回目はともかく2回目は俺のいない間にあったのか?・・・・お返し?
「お返し?2回目っていつ。というか、俺だけのけもの?いやまあ、女だけの秘密かもしれないけど。」
「はい、落ち着いて。」
リディの手には術式が展開される。
「これで説明するわ。」
リディの術式が俺の頭を覆う。
「才華、治療お願い。私は蜘蛛蹴散らすわ。」
愛音が刀を振り、子蜘蛛を切り切伏せる。状況は俺がゼフォンのもとで観た映像の直後だ。
「片づけたら、土壁で覆って、千歳。あ、空気穴を忘れないでね。」
才華は愛音に叫びながら、俺の治療を開始していた。才華は愛音を『千歳』と呼んでいる。
愛音が『千歳』?どうなっている?
愛音は子蜘蛛を片づけたあと、すぐさま魔法で土製のプレハブ小屋をつくりあげる。
「心臓付近は私が。千歳は他をまず応急措置、そのあと医療道具で胸付近を。」
「ええ。」
才華の指示に言葉少なく返事をする愛音。状況がひっ迫している証拠だ。よく助かったな俺。
「お邪魔するわね。」
音を立てることなく侵入したイディの声に反応して、愛音は最速で刀をイディの首元へ。眼つきがやばい。なんとか刺さなかったって感じだ。イディは慌てて両手をあげている。才華は目線を向けることなくそのまま治療を続ける。
「誰?要件は?簡潔に答えて。私が違和感を感じたら、斬り殺します。」
「魔女のイディ・ラーン。おいしいそうな匂いに引き寄せられてここに。」
いたって真面目な表情で答えるイディ。俺の血の匂いだよな。
「千歳。斬れ。こっちの手が足りない。」
「さよなら。」
同じ考えに至った2人。
「まって。まって。そこの彼じゃないわ。なんなら助けてもいいわよ。あと人の肉は食べない、食べれない。食べたいと思わない。」
2人以上に必死な声を出すイディ。俺じゃないならコア?愛音?才華?
「手短に説明して。」
「私も含めた3人なら彼を救える。その対価に私の食べたいものを頂戴。」
「何を食べるつもり?」
「『名前』。って言っても全く分からないと思うけどね。1つだけ安心して。死ぬことはないわ。」
『名前』・・・・・『千歳』となんらかの関係性はあるんだろう。
「才華・・・・・。」
怪訝な表情の愛音は一瞬だけ視線を才華へ。
「さあ、どうする?」
イディも才華へ目線を送る。
「もう1個答えて。力づくでは奪えないの?。」
一触即発の空気となる。確かにそうだ。死亡状態の俺に気絶状態のコア。俺を治療しながら、戦うのは2人には無理。治療しないという選択も2人にはないだろう。大規模な炎、氷、風の魔法を使ったばかりだから、疲労だってある。襲って奪うことはできるはずだ。
「戦うことより、交渉したほうが安全だし食べれる可能性が高いと思ったから。あと味違うのよ。死んでるより生きてるときのほうがおいしいのよ。」
指を立て答えるイディ。なるほど。
「それに、まあ。これはいいかしら。この2つで納得できる?もうそろそろ決断しないと手遅れになるわよ。」
まだなにか理由があるのか。
「千歳、こっちに。ただ、『名前』の件は、成功報酬で後日、私たちが一段落したらね。」
「契約成立ね。」
口角をあげるイディ。
「なら、すぐに始めて。」
刀を下した愛音も俺の治療に戻る。
「2人はそのまま続けて。」
イディが展開させた術式が光輝き人の女性が現れた。
オレンジ色のラインが入ったノースリーブのセーラ服を思わす白色上衣。オレンジスカート。オレンジ色の腕抜き。白色ニーソックス 右肩からかけたランタンの紐が胸を強調し、腰元には三つ又に分かれたナイフが2つ。白色リボンでまとめたボリュームのあるツインテール。少し幼い雰囲気を持った女性。髪は赤い。
「お久しぶりね。サンホット。」
サンホットと呼ばれた魔女はあきれた顔をしている。
「毎回言ってるけど、いきなり呼ぶのはやめなさいよ。イディ。」
「ごめんなさいね。今回は結構切羽詰まっているの。とりあえずあの彼をね。」
俺を見たサンホットはしかめっ面となる。
「呼ぶにしても私も美味しいものが欲しいんだけど。」
その視線は俺を治療している2人に向けられていた。
「そこをなんとか。お願いね。」
片目をつぶってお願いをするイディ。
「分かっていると思うけど貸しだからね。あとイタンダに連絡だけしといて。」
「ええ。任せたわよ。」
サンホットは俺のもとへ。
「2人とも一旦離れてくれるかしら。」
サンホットの言葉に素直に従う才華と愛音。
「本当にまずそう。死ぬ想定も覚悟も零じゃないけどすっごく半端なまま死んでる。それならなにも考えないで死んでくれたほうがまだましなのに。」
俺を見て小さくつぶやいたサンホット。
「はあ。・・・・・・・・・あ。ん。」
ため息をついた後、サンホットは口を開いて閉じた。
「終わったわ。」
2人のほうへ振り替えるサンホット?なにをした?ただ口を開け閉めしただけだよな。
「何をしたの?」
愛音が口を開く。
「死ぬ可能性を食べた。」
2人も言葉の意味を理解できない顔をしている。サンホットは口を開いて舌を伸ばす。その舌には三日月を思わす紋様が浮かんでいる。魔女ってそんなことができるのか。どんな原理なのかさっぱりわかんないけど。
「今ならこの負傷で死ぬことはない。だからといって放置していい傷でもないし、時間がたてば死ぬ可能性は出てくるから、あとはあなたたち次第。」
サンホットの言葉に促され、2人は治療を再開する。
「不味いものは遠慮したいんだけど。」
「そこまで不味かった?」
コクンと頷くサンホット。思い出したくもないようだ。
「あの2人のほうがおいしい素材なのはわかっているくせに。」
「それはね。」
「だから我慢もできずにここにきて、弱みに付け込んで、私を呼んで、だもんね。」
「ええ。魔女らしいでしょ。」
悪びれもしない笑みを浮かべるイディ。
「イタンダのところに帰るわ。」
術式を展開させてサンホットは消えていった。
「・・・・これで。」
「こっちも全部終わった。あとは起きるのを待つだけね。」
俺の治療を終えた2人。
「これで報酬はもらえるかしら。」
イディは舌を伸ばす。弓矢を思わせる紋様が舌にあった。
「そうなるね。」
才華は立ち上がる。
「後日サンホットみたいに呼び出すから、お礼のほうはお願いね。」
「ええ。約束は守ります。」
イディは俺の体に術式を展開させる。サンホットを呼び出した魔法なのか。これで契約を反故することもできない、ってことだよな。
「それじゃあ。またね。」
イディは展開させた術式の中に移動し、消えていった。たった数分の出会いだった。
「在人は無事でよかったけど、『名前』を食べるってどう思う?」
「そのままでしょ。無くなったらどうなるかはわかんないけど、在人の命のほうが大事。」
「そうね。・・・・在人には?」
「魔女が来たときにね。イディ本人がいたときのほうが説明しやすいし、時間に余裕があると在人がなんとかしようといろいろと動いて、もっと混沌とした状況になると思う。」
「分かった。」
「それよりも、イディの様子からして千歳」
「あ、コアちゃんが目を覚ましたわ。」
才華の話を遮り、愛音はコアのもとへ。才華はまだこの件になにかあるようだったが、コアのほうへ振り返ったときにはその様子は消えていた。




