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赤い。

 南の湖は今日で3回目。


 1回目はつらく悲しく。2回目は皆で楽しく。3回目は怒り耐え難く。


 心渦巻く感情が違う。湖で関わった人も違う。


 1回目はナファフのザインさん(湖までは行っていないが。)。2回目はシクの友達ルンカ、サウラ、ライジの3人。3回目がネクロマンサー。


 そして、すべての中心であったシクが目の前で立っている。1回目の泣き顔でもなく、2回目の笑顔でもなく、生気のない無表情な顔で俺達の方を見ている。見ているんじゃない、ただ目が開いているだけだ。

 

 シクはこの世界の白装束姿だが裸足のため、足だけボロボロになっている。だがそのことを気にすることもなく、自分の胸にナイフを突き立てている。


 その後ろにネクマンサーは目の前がいる。才華たちの予想どおりにネクロマンサーが生きていた。自爆したあいつがいた。どんな手段なのかしらんが、兄弟仲良くそのまま死んでればよかったのに。本当に。


「どうも。どうも。どうも。バカみたく真正面から来てくれて。」


 俺達は街道をまっすぐ進み、真正面から堂々と湖に着いたのだ。俺達が着いて、数十秒後、俺達だけと判断したネクロマンサーが木陰からシクと現れた。クロスティは身を低く構え静かにうなり声をあげ、エルージュは甲高い叫びをあげ、上空を旋回している。2人の怒気を感じる。


「隠れたり、奇襲したり、応援を呼んだりしたら、シクに危害が及ぶくらい考えるよ。」


「無駄なやり取りを省いただけ。」


「おいおい。おいおい。おいおい。話は早くて助かるが、無駄なやり取りくらい楽しもうじゃないか。」


「お生憎さま。無駄なやり取りを楽しむのは在人と決まっているからね。」


「あなたと楽しむことはなに一つないわ。」


「それに。それに。それ」


「自爆したのに生きていたことを驚けよ。かしら?」


 愛音がネクロマンサーを黙らす。そうそれ。俺もそれは気になる。


「どうせ。手や足の骨を差し替えておいて、自爆の術と死体生成、操作の術を連動且つ時間差がでるように発動させたんでしょ。自分が追い込まれたら、安全に逃げれるように。」


 なるほど。ネクロマンサーの様子から才華の推測は当たっているようだ。


「せいか」


「で要件はなに?」


 才華もネクロマンサーの話をぶった切る。ネクロマンサーと余計な話をする気はない。才華はそう言っている。その目線はあくまでシクだ。


「私たちの命?弟の復讐?計画を邪魔された仕返し?どれでもいいけど。」


 愛音もシクを見ている。


「こっちを見ろや。こっちを見ろや。こっちを見ろや。要件?まずお前らを殺して、憂さ晴らしだよ。まずはこれも見せたくてね。」


 ネクロマンサーの口が歪むと同時に、シクが自分の胸にナイフを突き刺す。


「ああああああああああああああああああああああああ。」


 シクの胸から血が流れ落ち、痛みに苦しむ声が静かな湖に響き渡る。


「おまえええ。」


「っ・・・・・。」


「動くなよ。動くなよ。動くなよ。」


 刀を抜く愛音、手を突き出す才華。その2人に手を突き出し制するネクロマンサー。2人は止まるが怒りはもう頂点に達している。


「怒るなよ。怒るなよ。怒るなよ。なに傷は治るんだから。」


 シクが胸からナイフを抜き出すと、その傷口が徐々に治っていく。たしかに傷は治っていく。だがこれを見せつけられて、平然でいられる人物はいるか?


「ほらな。ほらな。ほらな。俺が生きてる・・・いや存在しているうちかな?その間は傷なんで大丈夫なんだから、安心しろよ。」


「ああああ。あ。あああ。ああ。」


 今度は腹にナイフを突き立てた。それも何度も何度も。シクの服が赤く染っていく。


「ほら。ほら。ほら。見てるだけじゃなくて、なにか声をかけてやったらどうだい。俺は優しいからね。今から体の動き以外は自由にしてやるよ。」


 ネクロマンサーが指をならす。


「あ。あああ。・・・・かさん。いと・・・・・・ん。」


 シクの体は小刻みに震え、恐怖で涙を流している。戦士君たちはダメージで動きを止めたり、叫んだりすることはあったが、涙までは流していなかった。


「・・・・シク。」


 愛音の顔が苦痛で歪む。


「可哀想に。可哀想に。可哀想に。こいつをさっさと埋葬しないからこうなった。ああ。酷いやつらだ。」


 あたかも自分は無関係を装うネクロマンサー。ふざけるな。お前が。お前が原因だろうが。俺も我慢できなかった。


「お前が、シクを殺したんだろうが!」


「在人!」


 俺が叫ぶのを才華が制する。なんでだよ。才華。才華はそれ以上何も言わず俺を一瞥し、目線を前へシクへ戻した。


「わた・・・し・・・・死ん・・・・・」


「あ・・・・・・・・・。」


 シクの顔が混乱しだんだんと絶望でおおわれる。自分の異常と俺の失言が自分の死を実感させてしまったのか。


「酷い奴。酷い奴。酷い奴。小さい子への言葉は選ぼうぜ。自分の状況を知って困惑しているじゃあないか。それとも長々と騙すより、非情な現実を教えてあげたのか。」


 こいつ。こいつ。この状況も望んでいたのか。くそが。つううううううううううううううう。


「もう黙れよ。」


「もう黙ってよ。」

 

 2人が静かに言い放つ。その威圧感にネクロマンサーが気圧される。


「シク。少しだけ我慢してて。もう少しだけ待ってて。」


「シク。必ず助けるから。私たちを信じて。」


 一転して2人はシクに優しく微笑む。シクの表情が少しだけ落ち着いたものとなる。




「麗しい。麗しい。麗しい。どういった関係かは知らんが信頼しあっているんだねえ。これ以上こいつを弄っても効果なさそうだ。」


 手を叩くネクロマンサー。


「私たちの命が目的なら、どうする?無抵抗でいたほうがいい?それとも消滅以外じゃ倒せないその体で挑んでくる?」


「そうだな。そうだな。そうだな。自害しろと言っても俺好みの状況にならずに死にそうだし・・・」


 ネクロマンサーは苦しむ2人が見たいんだろうが、2人なら無表情であっさり自害してもおかしくない。


「抵抗はするだろうし。」


 そのつもりだ。大人しく従う2人でもない。


「こいつにやる魔力はもったいないな。」


 ネクロマンサーの言葉と共にシクがナイフをこちらに向けて走り出す。狙いは俺か。今度はシクに攻撃させるのかよ。とことんふざけた奴だ。どうする。


 俺の前に才華と愛音が立つ。2人がナイフさえ弾いてくれれば、俺でもシクを抑えれる。このチャンスにシクを取り返せる。


「いいね。いいね。いいね。」


 突然、湖からドラゴンが飛び出て、口から業火が放たれる。やけにあっさりシクを手放したと思ったら、これが狙いか。このままだと全員巻き込まれる。動けばよけれるが、シクが。どうする?


 考えるだけの俺とは違い2人はとっくに動き出していた。才華はシクを抜き去り、愛音はシクのナイフをはじく。


 「シクごめん。在人お願い。」


 才華は全面に氷の壁を作り出す。愛音はシクの服をつかんで、俺に投げた。


「りょーかい。」


 俺はなんとかシクをキャッチ。愛音も氷の壁を作り炎を防ぐ。


 シクからの抵抗もないし、炎も防げている。あとはネクロマンサーとドラゴンを倒せばかいけ・・・・・


「才華、愛音!!!」


 俺の叫び声に反応した2人が振り返ると同時に2人の顔が驚愕する。もう間に合わない。


 シクの体に現れた術式がシクの体を弾きとばした。鎧を弾き飛ばした中堅戦士とは異なり、自分の肉体を弾き飛ばしたシク。肉が、骨が、血が、衝撃が、俺の体を貫く。衝撃で揺れる目線はネクロマンサーの歪んだ笑みだけを捉えていた。くそがっ。


「がっ。はあ。はあ。はあ。」


 左目が開かない、これ、腹、胸のダメージでかいな。痛みはある。苦しい。だがそれ以上に、腕はあるのに腕に何もも感じない。数秒前まであった重みや手触りがない。


 痛みを堪えて自分の体を見る。


 赤い。赤い。赤い。赤い。赤い。赤い。赤い。赤い。


 シクはいない。これは俺の血なのか?それともシクの血なのか。どっちだ。


 2人を見ると愛音はぺたんとしゃがみ込み。才華はなぎなたを落としていた。


































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