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無くなったもの

 ギルドの安置室にて3人の遺体、中堅戦士、中堅斥候の遺品、ネクロマンサーの鞄を預ける。遺品、鞄はギルドのほうで、戦士君、金髪ちゃんは槍ちゃんがそれぞれ埋葬する。


 ギルドでイトベスさんたちと別れ、逸る足を抑えながら自宅へ向かう。珍しく2人は無言だった。

 

 シクが生き返る。俺が死んだことで?死にかけたことで?手にいれたチャンス。全部夢かもしれないし、現実は厳しいのは知っている。だが僅かな可能性を試すことに躊躇はない。


 ・・・・・・・・・違う。生き返らせるんだ。魂が解放された今、俺たちがシクの遺体の元へ戻れば遺体は死後間もない状態に戻るはず。その死はこの世界での判断基準、2人の基準なら蘇生できるかもしれない。


 そして、途中で俺はあることに気付き、俺は足を止め、2人が俺を不思議そうに見る。


「・・・・戦士君や金髪ちゃんも蘇生できたのかな。」


 俺が女神ゼフォンに会ったときには戦士君や金髪ちゃん、中堅戦士に中堅斥候が死んでいることを知っていた。だが俺はその4人のことを全く意識していなかった。俺がそこに気付いていれば、槍ちゃんには・・・・・・。


「それはそうかもしれないけど。考えすぎ。」


「聞いた状況でそこまで考えるのは無理ね。」


 2人は俺の考えを否定する。


「いや、でも。少なくとも槍ちゃんにとっては」


「はい。落ち着いて。」


「その状況なら私たちもシクを優先する。まずはシク。私たちの関係ならそうなる。仮にアマちゃんが在人の立場なら、ドトー君とルーパちゃんのことを優先してたと思うわ。」


「ドトー、ルーパーともっと早く出会っていたら、チームを組んでいたら在人は思いついていたかもしれない。でもそれはたられば。」


「アマちゃんには悪いけど、そうなるわね。」


「それに。・・・・・まだシクが生き返るとは決まってないんだから。なにがなんでも生き返らすけどね。」


「ええ。可能性があるだけで決定してるわけじゃない。夢みたいな物語みたいな可能性。でも私たちで叶える。シクを2度も死なせない。」


「あ・・・・・・・。」


 それで2人は無言だったのか。俺は2人ならと思ってこの条件をゼフォンにお願いした。だから2人にかかるプレッシャー、シクの命の重みを全く考えていなかった。


 失敗したら、シクをもう一度死なすことになる。


 このことを考えていなかった。仮に失敗しても異世界転生すればいいとしか考えでいなかった。どこかでシクが生きていればいいと思ってた。そこで考えは止まっていた。


「・・・・俺は」


 2人が黙っていたのは失敗のイメージを振り払っていたのだろう。それでも俺はシクにこの世界で生きて欲しい。その考えも捨てれない。


「ごめん。俺はそのことを考えていなかった。ただシクが生き返ることしか考えていなかった。2人のことはなにも考えていなかった。」


 俺は2人に頭を下げる。


「ううん。在人がその可能性を作ってくれた。」


「ええ。今度は私たちが答える番ね。」


 2人が俺の肩に手を当てる。


「2人とも」


「よーし。悩むのはここまで。目の前のことを全力で行おう。」


「そうね。だからまずは帰りましょう。クロスティもエルージュも急かしてるわ。」


 上空でエルージュは旋回しており、クロスティは先頭で振り返り俺達を見ていた。



 

 家につき、エルージュ、クロスティはそれぞれの領域に戻った。


 俺も家の鍵を開け・・・・?あれ?


「どったの、在人?」


 才華が俺の異変に気づく。


「鍵が開いてる。」


 俺は家の鍵を確かにかけた。昨日、シクの身になにも起きないよう祈りながら鍵をかけた。それを愛音は見ている。


「在人!」


「クロスティ!エルージュ!」


愛音が俺を扉前から壁際に引っ張り、才華も壁際に飛ぶ。エルージュは飛び上り、クロスティは才華の隣へ。


「玄関先は荒らされてないし、中に気配もないわね。奇襲もなかったわね。」


 愛音は壁際から扉を上げ、中を見渡す。誰かが鍵を開けて侵入したのか?


「鍵自体も壊されたり、いじられた跡はない。エルージュ、クロスティは玄関で警戒。私たち以外がでてきたら攻撃。容赦するな。」


 才華の指示でクロスティは体勢を低く構える。


「泥棒?」


「ただの泥棒ならその臭いにクロスティが気づくと思う。そうならないってことはただの泥棒じゃない。もういない可能性が高いけど、気配を消している可能性もある。」


 なるほど。


「中で待ち伏せはなかったから、突入するよ。」


「ええ。ならまずは。」


 2人が目を合わせる。


「「シクのところ。」」


 2人が突入する。シクの部屋までの行くも室内に荒らされた形跡はない。人の侵入した形跡も感じられない。


 昨日との違いはシクの部屋のドアが開いていること。そして、部屋の中にいるはずのシクの姿がないこと。


 昨日は間違いなくベットの中にいた。あの安らかな表情で眠っていた。


「泥棒はシクの遺体が狙い?なんのためにさ?」


「違う。私たちが狙いだね。」


「そうね。ほら。あそこを見て。」


 愛音が部屋のドア横の壁を指さす。


『湖でお前らだけ待つ』


 壁にはそう書かれていた。壁近くの床にはペンが投げ捨てられている。湖?どこの?


「身代金目当ての人攫い?俺達が留守だから侵入してきたってことだよな。でシクの遺体を盗んでいったのか?」


「それも違う。」


 才華が首を振る。


「違うってどういう意味。」


「身代金狙いならそれについても書かれるはず。」


 あ、そうか。


「それにこれはシクが書いたのよ。」


「は?」


 シクはまだ死んでいるから書けるはずがない。なにを言っているんだ?愛音?


「この文字の位置はシクの背の高さで書いてあるのよ。在人。」


 あ。言われるとそうかも。壁の文字は子供の背丈の位置に書かれている。


「犯人がわざとその高さに書く理由もない。シクくらいの身長の犯人の可能性もあるけど、誰かが入った跡もない。だから犯人は1人しか思いつかない。」


 才華は犯人に心当たりがあるのか?誰だ?全然わからん。


「犯人って?」


「ネクロマンサーがシクを操ったとしか考えられない。」


 俺の質問に才華は淡々と答え、愛音も頷いている。?だってアイツは死んだはず。俺達の目の前で自爆した。イトベスさんたちも死んだと判断している。


「自爆したネクロマンサーが生きている?どうやって?」


「この世界なんだから、魔法か特性かなんらかの奥の手があったてことでしょ。」


 そう言われると納得はできるか。


「ネクロマンサーじゃない。高レベルな人さらいの可能性は?」


「この街で湖と言ったらまず3つは思いつく。その中で湖だけで互いに場所が通じると思う?」


 俺らにとっては湖と言ったら南の湖。


「じゃあ、湖って。」


「ネクロマンサーは私たちとシクのことを把握している。だから、南の・・・シクの家族が眠っていた場所の湖ね。」


 南の湖に至る林道でシクの母親の遺体を盗む。俺達にとっては今回の件の始まりの出来事。そこからシクは死に、俺達はネクロマンサーを狙う流れとなった。


「なんのためにさ?」


「まず、50名近くいる傭兵団を相手するよりは少人数な私たちへ報復なんでしょう。あとは憂さ晴らしか、新しい駒の補充ってとこじゃないかしらね。人質の効果が出せる相手って思ったんでしょうね。」


 シクを人質にとったから動揺させれる。優位に立てる。とネクロマンサーは考えたのか。


「あと呼び出すのも簡単と思ったんだろうね。実際、この状況を私たちは無視できないし。」


 2人が・・・・・・この状況で冷静すぎる。


「どうする?」


「どうしようもないよ。すぐに行くよ。」


 それはそうだけど。


「俺達だけで?」


「お前らって書いてあるからね。シクを無事に取り返すにはそれしかないよ。まあ、傭兵団じゃないからクロスティとエルージュには付いてきてもらうけどね。」


「俺達だけでなんとかなる?」


 人質を取っているとはいえ、戦力があるはずだ。


「さあ?ネクロマンサーだけで、私たちと相手するつもりはないでしょ。ドラゴンや他の戦士とか奥の手とか非常手段はあるんじゃないの?」


「そうね。私たちを倒せるだけの手駒か策はあるんじゃないかしら?」


「昨日の連戦、ここまでの移動のあとだけど、大丈夫かよ?」


 昨日は肉体的にも精神的にもくる戦いだった。一晩休んだとはいえ疲れがあると思う。


「・・・・・・シクを。・・・・・・・妹を。・・・・・・安らかに眠っている子を攫われてなにもしないって選択肢はないよ。もともとシクのために行動していたんだから。」


「もしネクロマンサーが逃げたら、シクがどこで捨てられるか分からないわ。そうなったら、シクの蘇生はできない。埋葬もできない。そんなことは絶対に嫌。」


「・・・・・・そうだな。」


 2人のいう通りだ。もともと当面の目的はシクの安らな眠りのために魂の奪還だった。今の状況でもやることはなにも変わらない。シクはなにがなんでも取り返す。








 



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