VSでっかい戦士2
どうやってこいつを倒す?
1 森を破壊したような高密度の炎の魔法で焼失。
2 凍り付かせて粉砕する。
3 才華の魔法で空間ごと削る。
どれも動く激しく相手には難しそうだ。
時間をかければキャノさんたちが戻ってくると思うがそれまでしのぎ切れるか?救援をあてにするのはよくない気もするが。
「あーはははっ。粘るね。粘るね。粘るね。でも手詰まりだな。」
2人が防戦一方なのをネクロマンサーは笑って見ている。笑う余裕があるのは事実だ。くそっ。
2人は目を一瞬だけ合わせ頷く。どうする?
愛音は刀を納刀し大戦士に向かっていった。どうするつもりだ?居合抜きとかは教わってないし、愛音がしたのを見たこともない。ぶっつけ本番なことはしないと思うが、狙いがわからない。
大戦士のこん棒を回避し、背後へ回る。大戦士が振り返ると背後から才華の炎の弾幕が大戦士の上半身に直撃する。さらに愛音も炎の弾幕を張る。大戦士は直撃を受けながらもこん棒を振り回し、炎を薙ぎ払う。2人はそれでも弾幕を止めないでいる。
「無意味。無意味。無意味。その程度の炎じゃ燃えないよ。」
ネクロマンサーの言うとおり、大戦士に炎のダメージはさしてない。室内は炎が飛び散り熱気が増す。逆にこっちがあぶないんじゃないのか。
限界が来たのか2人弾幕が止まり、大戦士が愛音に駆け寄るが、疲労のせいか愛音は動けずにいる。そこへ容赦なくこん棒が振り下ろされる。
「いけるかしら。」
愛音は刀を抜いて、振り上げ、大戦士の右腕がこん棒と一緒に床に落ちる。
「いけるわね。」
斬った。愛音があの大戦士を斬りおとした。居合切りではない、素早く刀を抜いて、そこから振り上げる流れだった。単純に斬りあげただけだった。
これにはネクロマンサーも口をあんぐり開けている。
「GAAAAAAAAAA!!!!!!!」
大戦士は絶叫をあげ、左腕でラリアット。愛音はその左腕を斬りおとす。さらに両脚を切断した。
大戦士が仰向けに倒れた。
「まだだ。まだだ。まだだ。」
ネクロマンサーが叫びながら大戦士に術式を展開させる。大戦士を回復するつもりか。大戦士を早く消失かもっと細かく分解させないと。
大戦士の切断面から新たに肉体が再生されていく。だが愛音は術式の範囲から離れた。そして、大戦士の上に別の術式が展開される。
「遅いよ。」
この術式は才華か。才華のほうを向くと才華のなぎなたの持ち手が光っている。そして、才華の展開した術式に向かって、先ほど大戦士が弾き飛ばした炎が集結し、アラクネルのときより小さいがそれでも大戦士を覆い尽くす大きさの火球が。あの熱量の火球が完成する。
「さよなら、でっかい戦士さん。」
才華が薙刀を振り下ろすと、火球が大戦士を燃やしながらつぶしていく。大戦士の叫び声と火球の熱が空間を埋め尽くすが、それも段々と消えていった。
火球が消え、大戦士のいた場所には焦げた跡しか残ってなかった。これで残るはネクロマンサーのみ。
2人はネクロマンサーの前に立つ。
「馬鹿な。馬鹿な。馬鹿な。斬れるわけがない。燃やせるわけがない。」
ネクロマンサーは狼狽した。大戦士に絶大な信頼をおいていたのだろう。
「実際なにをしたの。」
「ガーゼットさんの真似ね。ただ強度を保つんじゃなくて、超音波振動を応用してみたの。」
鞘の魔法石を指さす愛音。なんとなく理由はわかった。ネクロマンサーに理解できるか分らんけど。
「東方先生の応用。ばら撒いた魔法を無駄にしないように、かき集めて圧縮した。同じ規模のを一から作るよりこっちのほうが早いよ。」
持ち手の魔法石を指さす才華。ああ。弾幕として撃ったのは最初から弾かせるつもりだったのか。ど。っちにしろネクロマンサーには通じてないけど。
「次はあんたの番ね」
「もう終わりにしたいんだけど。」
「くっ。」
どうやら、杖男とは違って自分で戦うタイプではないようだ。ネクロマンサーは鞄に手を伸ばそうとする。
だが2人の方が何倍も早い。才華の氷が鞄を弾き飛ばし、才華の水がネクロマンサーの右手に穴をあけた。
「があああああああああああああああ。手が。手が。手が。」
床を転げまわるネクロマンサー。終わったかな?
「くそが。くそが。くそが。まだだ。こい。」
ネクロマンサーは右手を押さえたまま立ち上がり、上空を見上げる。?あ。ドラゴンか?他の遺体を復活させるスキなど2人がくれるはずない。それなら先ほど村に向かわせたドラゴンを呼ぶのか。
大戦士の相手をして気付かなかったが、いつの間のか外の戦闘音が止んでいる。戦闘が終了したと判断できるってことはまだ冷静なんだ。油断はならんか。
だがドラゴンの変わりに崩れた天上から現れたのは3つの影。天上から飛び降り、ネクロマンサーに立ったのはイトベスさんたちだった。あららドラゴンもこの人たちの前には無意味だったのか。
「残念だったのの。」
「次はなんだと思う?ガタクン。」
「・・・・・・・・次はない。」
ネクロマンサーへ弓を構えたガタクンさん。キャノさんは冗談が通じないことに苦笑をみせていた。
「さてさて?新たに遺体を呼び出そうとすれば、いや呼び出そうとする意思を持てば最速の矢がおぬしを貫くぞぞ。」
イトベスさんの言葉はハッタリではないんだろう。
「さあ。依頼主はだれかな?」
「・・・・・・。」
キョノさんの質問に睨むネクロマンサー。
「ま。言わんよな。ギルドに連れてジブルに任せよう。それが一番早い。」
「ジブルって誰です?」
「もう1人の副団長。メガネ、長身、捻じれた角の女。見たことはないか。」
シクと2人でギルドに才華、愛音を迎えに行ったとき見たことあるな。あの人か。へえ。ああ。そういえばそのときはイトベスさん、カタムさんと話していた。幹部会議だったのか。
「傭兵団の『狂った天秤』か。」
なにその異名。なんか怖い。
「それ。本人に言うなよ。尋問が拷問になるぞ。」
キャノさんがネクロマンサーに指さす。まじでか。怖えな。
「はあ。はあ。はあ。安心しろ。言うことはないから。」
ネクロマンサーが術式を展開する。それとほぼ同時に矢が左肩に刺さるも術式は消えない。キャノさんが斧で胴を斬る。ネクロマンサーは血を吹き出しながらも不敵に笑った。全身から血が吹き上がる。
「自爆じゃじゃ。」
「離れろ。」
イトベスさん、ガタクンさんが同時に叫び。自爆?皆素早くネクロマンサーから離れる。俺も才華、愛音に引っ張られた。引っ張られるの今日何度目だ?
「口開く。耳お抑える。」
距離ととって土壁を作った才華の叫びの直後、爆音と爆風が室内をつつむ。ひえ。生きてる間に爆発に遭遇するなんて思いもしなかった。
煙がはれ、ネクロマンサーの姿はなかった。
「あの手の最期の半分は自爆だ。」
イトベスさんの作った土壁の裏からキャノさんが立ち上がる。ガタクンさん、イトベスさんも平然としている。この手の自爆にも慣れているのか。
「死んだ。・・・・・・・あ。魂の開放はどうなっているんだ。」
戦いの中ネクロマンサーは魂は解放したと言っていたが、信憑性がない。
「安心せいせい。今確認できる3人の魂はもう体から離れている。」
「わかるんですか?」
「術師だからじゃのじゃの。あの3人の魂はあるべきところへ、ゆくっりゆっくり向かっているはずじゃじゃ。ま。それがどこにあるか知らんがのの。」
イトベスさんは空を仰ぐ。3人の魂は行くべきところへ向かっているのだろうか。ならシクの元へ急がなければ。
「ゴブリンの引率者は倒したが、取りこぼしはないか。だな。」
キャノさんが大分日も落ちているので隠れていたら面倒だな。ギルドで受けた依頼はゴブリン退治。対峙したゴブリン自体は全滅している。
「そのことなら、ここと村までの間にゴブリン、人の気配はない。」
「そうね。ここを中心に円状に探したけど、気配はないわ。」
「わしにそこまでの感知範囲はないが、少なくともこの廃墟にはないのの。」
「そうか。なら依頼達成だな。片づけたら、まず村に戻るとするか。」
キャノさんが周囲を見渡す。
母親、戦士君。金髪ちゃん遺体は俺達の予備マントで覆った。中堅斥候の手足とナイフ。鎧の一部。人骨を入れていたネクロマンサーの鞄。これらは全て回収、街で埋葬する。
ネクロマンサーの鞄は以前ガンソドの面々が持っていた鞄と同様の鞄だった。だからドラゴンサイズの骨も持ち運べたのだろう。この鞄の中には何人分の死者の体があるのだろうか。
待機していたエルージュと合流し、夜になり村へ帰還した。村にはクロスティ、槍ちゃんが無事に戻っていた。こっちも無事でよかった。
戦士君と金髪ちゃんの遺体の前に槍ちゃんは号泣していた。2人とクロスティは槍ちゃんに寄り添ってあげていた。
槍ちゃんはこれから1人でどうするつもりなのだろうか。登録者を続けるのか。それとも転職をするのだろうか。この立場が俺だったらどうしていただろうか。分からない。分からない。
翌朝、俺たちは街へ戻った。




