VSでっかい戦士
これで残るはネクロマンサーと中堅戦士。教壇裏から立ち上がってきたネクロマンサーは状況を冷静に見ている。まだ降伏をすることはないと思うが。
「なるほど。なるほど。なるほど。考えが甘かったのは俺か。」
ネクロマンサーが指を鳴らす。なんだ?また床からドラゴンか?そう思い警戒したけどなにも起きない。なんだ?
「在人、下じゃなくて後ろ。」
愛音の言葉で振り返ると、シクの母親の遺体に術式が展開される。なんだ?母親だけでない、戦士君、金髪ちゃんもだ。
だんだんとシクの母親の遺体の肉が分解され、ところどころ骨が見えてくる。本来の姿に戻ったのか?氷漬けで判別しにくいが、戦士君の肉体にも刺し傷が開いてきた。魔法を解いたのか?動けない2人と戦闘員ではない1人に魔力を回すのは無駄と判断した・・・のかな?
「お望み通り。お望み通り。お望み通り。魂は解放してやったぜ。」
!これでシクの魂は解放されたのか。ならあとは帰るだけだ。いやでも本当か?操るのを辞めただけかもしれない。
ネクロマンサーは教壇の裏から鞄を取り出しその中へ手を入れる。それと同時に中堅戦士がネクロマンサーの盾になるよう移動する。
「魂の開放とお宝で命ごい?」
「外れ。外れ。外れ。まあ、稀少価値があることに変わりないなあ。」
才華の質問にネクロマンサーが取り出したのは骨。それも人の胴体部に当たる骨だった。
人骨2体分を床になげ、術式を展開する。骨に肉、皮と付き、人骨から人へ近づいていく。それとも戻っていくというのが正しいか?・・・・・のんびり見ている場合じゃない、これって遺体戦士の追加ってことか。
だがその遺体に、氷の弾幕が襲う。遺体は肉片、血、骨を舞い上げる。弾幕の威力は遺体の修復効果を上回っており、遺体は完全に飛び散った。
「させるとでも?」
才華の言葉にネクロマンサーは笑みを浮かべ、中堅戦士に目を向ける。
「焦るな。焦るな。焦るな。足元をよく見ろよ。」
術式内にいた中堅戦士の鎧がはじけ飛ぶ。中堅戦士の体が徐々にガタイの大きい男に変わっていく。というより、中堅戦士の肉体を食いながら、弾き飛ばしながら新たなが現れる。
「甘い。甘い。甘い。木を隠すなら森に 大きいドラゴンを隠すなら大きい地面に。遺体を隠すなら遺体に。」
中堅戦士の遺体の中に別の遺体を入れてたのかよ。用意周到なこっとで。才華の愛音は標的を変更し氷の弾幕を放った。だが、再生途中なのに氷の弾幕の効果が薄いではなく無い。当たって弾け飛んでいるにはいるが、微量。それこそ粉みたいなもの。肉体を破壊するより再生する効果の方が強い。
新たな戦士・・・・でいいんだよな?あの体格と筋肉で魔法使いとかではないと思う。中堅戦士だって俺より背が大きく、僅かに見えた体からしても鎧を着こなす筋力はあったんだろう。その中堅戦士が小さく見える大きさの肌黒の戦士が出現した。肌黒戦士の肉体に今度は腰を覆う鎧と、中堅戦士ほどの大きさのこん棒が左手に装着される。・・・・鎧とこん棒?
「肉体はともかく、鎧とこん棒はなんで?どうなんってんの?」
俺の疑問にネクロマンサーが嬉しそうに答える。
「例えば。例えば。例えば。今自分の全身を思い浮かべるとき、全裸を思い浮かべるか?違うよな。今の服装を含めて自分をイメージするよな。現時点の自分はこれだって思うよな。それは死んだ肉体も同じ。遺体でも技、知識、経験、記憶が残っている。だから死んだときの自分の服装や装備も憶えている。それをちり芥が再現しているわけ。流石に超一級品の性能や細かい小道具までは再現できねえが、個人の力量と記憶しだいではそれなりに近づく。そしてこいつ自体は文句なく一流だ。」
説明どうも。
「剣が弾かれるだけでは済まないし、お得意の魔法でもこいつは倒せんよ。」
「ふーん。」
「そうですか。」
ネクロマンサーと睨み合う愛音と才華。2人に焦りは見えず、冷静であり、それはそれでネクロマンサーの癪に障った。
「さっきまでの雑魚とはくらべものにならんぜ。」
それは俺にも分かる。殺し屋と対峙したときのプレッシャーを感じる。
「確かにその見た目と、氷の弾丸で倒せなかったから、すごいことはすごい。」
「それに、遺体から感じる気配の強さは今までと違うわね。」
「そうだ。そうだ。そうだ。お前らに勝ち目はねえよ。」
才華、愛音が素直に認め、嬉しそうにするネクロマンサー。
「「でも。」」
2人の言葉が重なる。
「遺体ってことは、倒せるってことよね。」
「心臓部分の骨が欠けていたってことは、そこを貫くことはできるって証明だね。」
そう言われると確かに心臓部分は穴が開いていた。
「あの大きさは魔法かしら?それともパンチ?」
「ゴブリンイーターみたいな触手とかもんじゃない。」
冷静な2人。
「お前らに。お前らに。お前らに。そんなことができるか。」
「GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。」
肉体の復元された大戦士が2人に突撃する。体格とパワーのせいで床を踏みつぶし、足を取られるながらも猛牛のように、暴走した大型ダンプのように突撃してくる。
この世界で対峙してきた相手ではぶっちぎりの体格とパワーで突撃してくる。どう考えても真正面から止めれない。ここにきたメンバーならキャノさんくらいか?
大戦士の突撃に対して、愛音はその場で迎撃する態勢。才華は間合いをとり、大戦士に魔法を放つ。氷、炎、風、雷、水。さらに足元から土もだ。すべてが弾丸となって飛んでいく。
大戦士は魔法を避けることも、弾くこともなく、そのまま愛音に突進する。愛音は横ステップで回避。大戦士はこん棒を振り払う。愛音はそれを回避。回避。回避。一降り一振りの風圧が一番離れた位置にいる俺にまで届く。あんなもん受け止めることは絶対にできん。その間も才華の魔法が当たるも気にもとめていない。
焦れたのか大戦士がこん棒を両手持ちし振り下ろした一撃は大型ゴブリン以上の衝撃であり、床が弾けた。愛音は下からの破片を後方に飛び回避。
大戦士が破片をものともせず愛音との間合いを詰める。そして、落ちた破片を踏みバランスを崩した愛音。そのスキを逃さずこん棒を襲う。
こん棒を振り切った大戦士。
だが、人と骨が砕ける音も、人が吹っ飛ばされる音も聞こえない。俺の耳に聞こえたのは風切り音。
愛音は足を前後に広げ、体を思いっきりのけ反らせてこん棒はその上を素通りしていた。体操選手か!そこから体を跳ね上げ、体勢を戻す。さらに足元の破片を大戦士の顔へ蹴り上げる。破片は右目に当たったため、大戦士は顔を抑える。
愛音はさらにこん棒を持つ右腕へ斬撃を加えた。愛音の表情から斬り落とす気だったのが、浅くしか斬れなかったようだ。骨も筋肉も鎧ですか。
愛音が間合いをとって体勢整えるたとこにはを大戦士の右腕も右目すでに治っていた。うん。ダメージないね。
愛音の斬撃、才華の魔法。どっちもダメージになっていないこの状況。疲れなんて関係なさそうな体格の大戦士の相手にこのままだとジリ貧になる。
元気いっぱいの大戦士の次の手は床や壁を薙ぎ払い、破片と土砂が飛ばしてきた。破片は細かく範囲も広いので、2人は素早く魔法で土壁を作り防ぐ。俺も慌ててしゃがんでリュックの後ろに身を隠す。
ここまで出番がなかったけど、リュックには大盾を結び付けている。衝撃はあるがダメージはない。
バインさんの盾は平気だが、2人の土壁は2、3回でヒビが入るので、タイミングを見ては移動、土壁の再構築で防いでいる。
大戦士は何度も何度も土砂を飛ばしてくるので砂埃が舞う。視界は悪いし、呼吸しにくい。どうする。どうする。
・・・・・・・・・・・・・?破片飛ばしが止まった?振り返ると大戦士の姿がない?どこだ?2人もネクロマンサーもいる。一番でかい大戦士だけいない。
「「上ーー。」」
はもった2人の叫び声。見上げると大戦士の影が俺を覆った。土埃を舞うために床や壁をこわしてたのか。そんなことより動け体。うごけーーーー。俺は横っ飛び。
まだリュック内には薬などもあるから、失うわけにはいかない。あとあんなの食らったら死ぬ。あの世界に行くのはお断りだ。
大戦士の踏み付けは回避成功。俺は四つん這い状態で逃げているので次は捕まる。ひいい。
大戦士が一歩踏み出したところでその足元が急激にせり上がり、さらに反対側の足が沈んだことで足がもつれる。2人のおかげだよな。俺は立ち上がり大戦士から離れる。助かったと思ったけど、まだ終わってない。
「UGGGGGGGAAAAAAAAAAAA」
大戦士は咆哮をあげ、愛音に向かっていく。




