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VSかぎ爪男。

 中央の建物はどうも教会だったようだ。それもかなり広い。


 ガタクンさんが先頭となり、罠の有無を確かめながら進んでいく。そして広いホールにたどり着いたところで、急に部屋が明るくなった。部屋の照明がついたようだ。


「なかなか。なかなか。なかなか。街が廃墟になっても、魔法具はまだまだ使えるもんだ。」


 部屋の奥に1人の男性が教壇に腰かけていた。その顔は杖男と差がない。つまりネクロマンサーだな。


「どうも。どうも。どうも。弟がお世話になったようだね。」


 こちらを一瞥するネクロマンサー。殺し屋と弟が敗死していることは把握しているみたいだ。魂を奪う魔法を使うことから、人の生死を把握する術を持っているのか。


「いえいえ。大したことはしてないんで。」


 才華は冷たい目線で答え、ネクロマンサーはムッとする。だがそんなやり取りより目が行くのは中央に位置し、裸の女を乱暴に抱いてる男。あれがかぎ爪の殺し屋なんだろう。こんな状況なのにかぎ爪男の動きが止まっていない。


「・・・・・・・・・・才華、在人。」


「ええ。」


 愛音と才華は同時に気づく。俺も男が乱暴に扱っている相手が誰かを今回ばかりは察する。


 腰から伸びる尻尾。頭頂部付近にある耳。面影のある顔つき。あの女性はシクの母親だ。母親の遺体だ。


 その遺体の目に光はないが、動いている。そして、俺たちに気づき口が動く。声は出ているようだが、微かで聞こえない。


「・・・・みなさ・・・・・・。」


 才華が小さく呟く。みなさ?・・・・・・皆さん。・・・・・・シクがあそこにいる。顔と胸と腹から違和感があふれ出す。これは怒りなのか、絶望感なのか、自分でも整理できない。


 ・・・・・・・・・・・ふざけやがって。


 愛音と才華が俺の服を震えた手で掴んでくる。2人とも同じ気持ちで、それを抑え込んで冷静にしている。2人は今すぐ感情にまかせて、かぎ爪男に攻撃をしかけたいはずだ。だがそれはイトベスさんに禁じられている。


「おいおい。おいおい。おいおい。まだ掛かるのか。仕事の時間だぜ。予定の3倍は働いてもらわんきゃならんのに。」


 ネクロマンサーはかぎ爪男に呆れた目線を送る。だがかぎ爪男は無視。


「ふうううううう。」


 かぎ爪男は行為を終え、遺体の首ねっこを掴みながら立ち上がる。ネクロマンサーによって動く遺体に痛覚があるのか不思議だったが、その答えは判明した。遺体の動きは、声は苦痛を表している。かぎ爪男はこちらを向き、遺体を掲げる。まさか、まさか。


「戦いの邪魔。また後。」


 かぎ爪男はそのまま遺体をこちらに投げつけてきた。人の飛ぶスピードではない。避ければ遺体が、シクが壁に激突する。どうする治療ありきで受け止めるか?それはそれで足を引っ張りすぎか。どうする?どうする?


「避けえい。」


 ガタクンさんの言葉に愛音と才華は俺を引っ張り、地面に倒れる。その際見えた2人の顔は怒りをにじませていた。母親の遺体の中身?人格?はシク。傷つけることなく取り戻したかったが、その望みは叶うことなく終わった。


「ああああああああああああああ。」


 悲痛な叫びが室内に響く。壁にはクレータとヒビが入り、遺体は全身の骨がバラバラとなったのだろう、骨が一部飛び出ている。


 シクの苦しむ声が聞こえる。


 今すぐ、あのシクのもとへ駆け寄りたいが、それもイトベスさんに禁じられている。遺体がどんな状況になっても操作されていることだけは絶対だからだ。



 体勢を直したところで、ネクロマンサーの周りには新たな遺体が4つ。そのうち2人は俺達も知っている姿、戦士君と金髪ちゃんだ。服装はボロボロであり、あのときのような活力も明るさも一切感じられない、ただ武器を持ち立っているだけ。


 他の2人は見たことはないが、戦士君たちと一緒にクエストに挑んだ中堅の戦士と斥候なんだろう。戦士は兜、鎧と見た感じ生身の露出部分はなく、剣と盾を持っている。殺し屋はどう殺したんだ?


「首ね。」


 俺の疑問に愛音が答える。首を一閃かい。


 斥候は両手にナイフを持っており、腰にはナイフ、ロープが見える。こっちは服の右肩から左わき腹にかけて斬られた跡が残っている。


「さてさて。さてさて。さてさて。口の軽い弟やあの女のことだ。だいだいはもう把握しているんだろう。」


「ほほ。そうじゃのじゃの。お若いのの。わし等傭兵団狙いなのはもう知っておるよよ。分からんのはお金の出所じゃなじゃな。ま、そこは後で吐いてもらうがのがの。」


 イトベスさんの言葉に対峙しているのがカタム傭兵団であることに気付くネクロマンサー。表情が変わらないが、危機感が増したのはわかる。


「なるほど。なるほど。なるほど。傭兵団6人出撃とは大判振る舞いだなあ。そりゃ、ゴブリンもイーターも全滅か。はあ。最悪だ。」


 大げさにガクッと頭を下げるネクロマンサー。余裕がある。


「少し違うな。そっちの3人は傭兵団ではない。街の登録者だ。」


 キャノさんがこちらを親指で指さし、ネクロマンサーの顔が変わる。ミタキの街の登録者、しかもどう見たって若手の俺達3人。傭兵団6人相手ならこの状況を納得できるが、俺達がいるなら話は別ですかい。


「そうか。そうか。そうか。なら少し考えをかえたほうがいいのかな。」


 足手まといと判断したか。それとも油断できない相手と判断したか。


「そうだな。今すぐ武装と術を解いて降伏するなら、無傷で済む。抵抗するなら命の保証はできんな。」


 キャノさんは俺達(俺を除いてるのはわかっているけどね)を傭兵団と同等の強さで扱っている。相手を揺さぶるハッタリなんだろう。


「なめるな。なめるな。なめるな。足手まといが3人いることを誤魔化すなよ。」


 こっちの服装と投擲された遺体への反応から判断したネクロマンサー。甘く見てくれるのはありがたい。


「そんなことより、少しいいかしら。生きてる今のうちに聞きたいことがあるんだけど。」


 才華がネクロマンサーもかぎ爪男も冷たく目線を送りながら口を開く。年下の女に見下されたことに無言のまま怒りを示すネクロマンサー。そんなことより才華を鑑定しているかぎ爪男。かぎ爪男のあの目は間違いない。あ、愛音も見たな。


 「狼人ウェアウルフの遺体と魂はなんのために使ったの?ついでにその術式はあんたにしか解除できないの?」


「馬鹿か。馬鹿か。馬鹿か。それを教えるとでも。」


「なんだ。なんだ。なんだ。その反応は?ああ。私たちを返り討ちにする自信はないし、それ以上に生き残る自信もないんだ。ならいいや。」


 ネクロマンサーの口ぶりを真似て返す才華。私達を皆殺しにする自信があるなら話しても問題ないよね。でもそうしないってことはそんな力を持ってないのね。と才華の表情はそう言っている。


「駄目よ、才華。」


「むう。」


 愛音が才華の肩に手を当て挑発を止める。それにより才華は口を尖らす。


「きっとあのネクロマンサーはテリカ・ヒッスと弟のゴブリン頼みだったのよ。でもそれが全滅して内心ハラハラ。最後の砦壁としてかぎ爪男は身近に置いてるけど正直不安、どう交渉しよと限界ギリギリなんだから。」


 ネクロマンサーに背を見せる体勢であり、愛音は妖しく口角を釣り上げていた。ただ首の角度的にネクロマンサーにその口元が見えるようにしている、ああその程度ね。殺し屋のほうが手ごわかいのね。って伝えるために。


「貴様ら。貴様ら。貴様ら。」


 目を血走りにして、睨み付けるネクロマンサー。あっさり挑発にのった。杖男そっくり。


「そういうところも弟そっくりね。」


 愛音はそこを見通して挑発したのか。


「で?どっちなの。自信がないから黙ってる?自信があるからしゃべる?」


「ふー。はー。ふー。はー。そうだな。そうだな。そうだな。自分たちの末路を先に知るのもいいか。」


 ネクロマンサーは表面上は落ち着きを取り戻す。


「ゴブリンどもは性欲が面倒だからな。だが生きた女を連れて移動もできなし、村や街から攫うにはリスクがある。だけど都合よく街の外で埋葬されている狼人の女があった。ゴブリンどもはこれで十分満足する。実際に働きもよくなる。」


 結局、しゃべるのも杖男と一緒だな。そして、話からしてシクの魂はまだ必要としていない。


「なんで最近になって魂をとりだしたの?」


 それさえなければシクが死ぬことはなかった。そして、その言葉にネクロマンサーがせせら笑う。俺達と狼人の魂に接点があることを察したのか。


「あれ。あれ。あれ。あの狼人の娘と知り合いだったのか?ふ。魂のない遺体はただの置物人形で反応なんておきない。動いて反応のある人形にするために魂が必用なんだよ。最初は反応なくてもよかったけど、そこの男が反応がないのはつまらんっていうんでね。だから、雇った身としてニーズに応えたまでさ。こっちも運よく術の範囲で娘が生きてたから。あーちなみに魂と肉体の反応を見れば、遺体との関係はわかるんでね。」


「そこのルー・・・・金髪の子や槍の子の方がさきにここに来たと思うけど。」


 愛音は金髪ちゃんを見つめる。確かにそうだ。シクの魂を奪うより先に生きた女性がここにきている。


「まだまだガキ。」


 才華の疑問にかぎ爪男が答える。好みの対象外かい。


「ってこと。ってこと。ってこと。ま、金髪は弟の好みだったし。槍はゴブリンの相手をしてもらったけど。」


 口元が歪むネクロマンサー。


「ふーん。で、術式のほうは解かれたことあるの?」


「あのなあ。あのなあ。あのなあ。これで食ってるんだぜ。ないに決まっているだろ。あと俺が死ねばより解除が困難になる、かつ苦しんで動き続けるようにしている。」


 性悪と思うが、これが普通なのかもしれない。


「この人たちの魂を解放させるには、あんたを死なすわけにはいかないってことね。」


「そういうこと。そういうこと。そういうこと。優しく扱ってくれよ。以外とか弱いんだから。あ、あとは遺体を完全消滅させるかだね。魔法による高治癒力の遺体いれものでも跡形がなければ治癒しようがない。」


 ネクロマンサーは思い出したように下卑た笑みを浮かべる。


 ・・・遺体は傷を生きている以上の治癒力があるのか。なら、シクも・・・。母親の遺体を見るが、治癒している様子はない。戦闘用ではないから、その効果はないのかも。これでシクと戦う可能性がないことに安堵はするが、この状況を許せるわけではない。


「くく。たまにその光景を見るけど、死者に鞭打つ非情な奴らだよ。遺体が叫ぼうが、痛みでのたうちまわろうが、攻撃しつづけるんだから。断末魔ってやつは何度聞いても慣れないなあ。」


 この言葉で遺体を攻撃しずらく誘導しているのか。最悪な場合、母親の遺体をあきらめればシクの魂は解放できる。どうする?2人はシクを攻撃できるか?シクの叫びに耐えれるか?


「はっ。勘違いしないでよね。そんなことする必要はない。あんたに解除させるんだから。」


「馬鹿か。馬鹿か。馬鹿か。俺が応じるとでも?それくらいなら死んでやる。」


「あんたが自殺しても、生き返らせる。実際、神様の死亡確認を2回覆しているからね。そのあとは、洗脳、調教、拷問、精神操作、薬漬け・・・・・・総動員してあんたに術式を解除させる。」


 怒りの全てを冷酷に転換させた才華がネクロマンサーを見下ろす。


「はいはい。話し合いはここまでじゃのじゃの。」


 イトベスさんが手を叩いて才華を制する。才華と目があい、サングラス越しにウィンク。才華は無言で引き下がったのでイトベスさんが頷く。イトベスさんはネクロマンサーのほうへ向く。


「最後に確認するが、魂を開放して降伏するつもりはないかのかの?お主等を殺さずに捕まえるのは大変そうでのでの。」


「じいさん。じいさん。じいさん。ないに決まっているだろ。そっちこそ、自害してくれよ。それのほうが痛い思いをしなくてすむぜ。」


「いやじゃよよ。」


「交渉決裂。」


 かぎ爪男が両手にかぎ爪を装備し、こちらに身構える。それに応じるようにキャノさんがかぎ爪男と向き合う。


 イトベスさんも杖を構え、ガタクンさんがネクロマンサーに狙いを定める。だがネクロマンサーは教壇に座ったまま。その代わり中堅2人組がネクロマンサーの盾になるように移動してくる。


 金髪ちゃんと戦士君は俺達の相手をするつもりだ。2人の構え方は前のときと変わっていない。違うのは生気が感じられないだけ。愛音と才華は武器を構える。2人の顔は余裕より冷静 いや冷酷に見える。俺は邪魔にならないように無言で下がる。


「じゃあああああ。」


 かぎ爪男が声をあげ、キャノさんに向かって走り出す。それが合図となり、ガタクンさんは矢を放ち、イトベスさん、キャノさんも前方へ走り出す。矢は中堅戦士がはじき、中堅斥候がナイフをガタクンさんへ投げる。


 かぎ爪男は左右に飛び跳ねながらキャノさんとの間合いを詰める。体格に反して身軽い。


「でりゃあああ。」

キャノさんが斧をふりあげ、間合いに入ったかぎ爪男に振り下ろす。


ドッシャアアアアアン!!!


 かぎ爪男が斧の間合いギリギリでブレーキをかけ、斧を回避。斧が床に突き刺さったところで、斧を飛び越え、かぎ爪を掲げる。かぎ爪男の顔は相手を殺せることで笑みを浮かべていた。


「うおおおおおおおお。」


 だが、キャノさんは振り下ろすよりも素早く斧を振り上げ、かぎ爪男は上空へ吹っ飛ばす。そして、左手の籠手で斧をたたき、斧が伸びる。


「どっしゃい。」


 ドッシャアアアアアアアアアアアン!!!!!!!!!


 キャノさんは斧の刃をかぎ爪男をに押し当て、先ほど以上の衝撃で地面に叩き付けた。かぎ爪男の体は真っ二つとなり、血を噴出した。









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