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合流

 治療は終了したため、俺は愛音の膝枕から立ち上がる。名残惜しい気持ちはある。


「在人、まずはこれ。」


 俺の鞄から『有り余れ、血と元気!』と書かれた瓶を取り出す。クルン製の体力回復薬だ。


 ネーミングはともかく味はまあ、栄養ドリンクだ、効果を実感するのはこれからだろう。2人も体力回復のため飲んでいる。さらに『魔力満ち足りていますか?』を飲み始めた。こちらは魔力回復用の薬だ。2人の魔力はケタ違いに多いので、魔力回復よりも、魔法を使ったことでおきる精神的疲労の回復に努めているはずだ。


「よーし、キャノさんたちと合流しに行こう。」


「そうね。」


 才華と愛音は武器を取って立ち上がる。・・・・もう薬の効果がでたのか?いや、それよりも早くネクロマンサーの元へ行きたいのだろう。


「その前にさ、1つ話があるんだけど。」


 2人の顔には疑問が浮かんでいる。だがこれは後回しにはできない。俺は死後の世界とシクの件について2人に説明する。夢みたいな話、作り話みたいな話。でも今はそれにすがりたい。


 俺の話を聞いて2人は黙り込む。


 まあ、胡散臭いし、真実味なんてどこにもない。信じてくれとも言っていない。あわよくば真実であれ、程度に思ってくれればいい。


「だとすると、ネクロマンサーは捕まえたいね。」


「そうね、街にまで連れてきて、魂を開放させたいところね。」


「うん。それか、その術式とかを見れれば、私の手で開放させることができるかも。」


「そうだね。それに。」


 2人は真剣な目つきで話し合っている。


「あの。2人ともなにを」


「なにって、シクの魂を開放させる算段ね。」


「うん。それ以外になにか?」


「・・・・・信じるの俺の話を?」


「うん。」


「信じてるわ。」


 唖然とする俺に対して、2人はさも当然に頷く。


「そうなの?なんで?」


 2人が信じる理由が俺にはわからない。


「こんなときに、嘘を言う理由がないでしょ。」


「在人が嘘を言ってないことくらい分かるわ。自分でも信じきれてない部分も含めて。ね。才華。」


「うん。うん。それに信じる理由が欲しいなら、たった1つ。それは在人だからだよ。」


 腕を組んでうなずく才華。


「私も。それにシクの魂は解放させる。それは変わらないでしょ。」


 愛音も微笑む。・・・・・・・・・・・俺だからか。そんな風に言われても困るが。


「そうだね。」


 俺も頷く。結果はどうなるかともかく、シクの魂は返してもらう。そこは変わらないよな。


「あ、でも1つだけ言いたいことが。」


「なに?才華?」


「シクはネクロマンサーの魔法のせいで仮死状態のほうが、矛盾が少なかったと思うよ。」


「・・・・・・・・。」


 言われるとそうだ。いやでも時間の余裕がなかったんだから、俺の頭でそこまで期待しないでくれよ。

愛音もそのことには気づいていたみたいで、俺の動揺に対して困った顔をしている。どうせ、どうせ、俺なんて。


「・・・・・・・・キャノさんたちのところへ行こうか。」


 切り替えて進むことにした。


「うん。」


「ええ。」


 俺達は地上へ戻る。無事だと思うが、どうなっているか。




 俺達のいた建物を出て、廃墟入り口方向へ走りだす。そして、戦闘中のキャノさんたちのもとへ辿り着く。2人もすぐ参戦するつもりだったが、目に移った物に動きが止まる。


「でっかいねー。」


 愛音はのんびりとした口調。


「あれが大物かー。」


 才華も感心している。


 俺達は大きな触手を見上げる。そうゴブリンイーターの触手を。でけえー。確かにでかい。あれが大物なんだろう。ミタキの街を襲ったあの大蜘蛛クラスの大きさだ。寄生された大型ゴブリンが宙にあり、その胴体から極太触手が6本出ている。かろうじてゴブリンだったのが分かるような状態だ。あれと室内で戦っていたら、俺らは戦う以前に生き埋めになっていたかも。あっぶねえ。


 その大物と対峙しているのがキャノさんだ。イトベスさん、ガタクンさんは周りのゴブリンイーターと戦っている。普通のゴブリンは見当たらない、全部ゴブリンイーターだ。3人に負傷はなく、余裕もあるように見える。


 イトベスさんが放った魔法により、ゴブリンイーターはゴブリンの下半身を土に覆われ動けなくなる。それでも迫りくる触手を避けながら、ガタクンさんは矢を放ち、ゴブリンイーターを攻撃していく。数十体のゴブリンイーターに囲まれている状態で、触手を躱しきるのはすごい。


 イトベスさんはゴブリンイーター一体一体に魔法でマーキングをしていく。そして、そのマーキングポイントにガタクンさんの放つ矢がグサっと刺さり、ゴブリンイーターの動きが一瞬で止まる。外すことなく、一撃で核をつぶしたのか。


「なるほどねえ。」


「参考になるわね。」


 2人がイトベスさん、ガタクンさんの動きを見て感想を述べる。


 イトベスさんのマーキングが大物に付いたと同時に、キャノさんも走りだした。触手を払う、よけるなどして、接近していく。


 そして、キャノさんは左腕に装着している籠手で斧の取手を数回たたく。叩かれるたびに斧の柄は伸び、刃は大きくなっていく。なんじゃありゃ。


「ファイナルゲッタートマホーク!!」


 才華は歓喜の声を叫ぶ。これについては異議なし。


 轟音と振動が響き渡る。キャノさんの斧は大物ゴブリンイーターのマーキングをぶった切ると言うよりは叩き潰した。その一撃でゴブリンイーターの動きは止まった。


 そして、この間に周囲のゴブリンイーターも片付いていた。傭兵団、すげえな、おい。



「おーい。」


 才華が手を振って、キャノさんたちのところへ走り出す。


「あ、待ってよ。」


 愛音も続き、俺も走り出す。


「お、無事だったのたの。」


 ひげをさすりながら、安堵してくれるイトベスさん。こっちを一瞥した後、使えそうな矢を引き続き回収するガタクンさん。


「状況は。」


 先ほどより2回り小さくなった斧で大物ゴブリンイーターを解体していたキャノさんはこちらを向き手を止める。


「えーと、先に依頼を受けた登録者5名のうち1名が無事でした。その子はクロスティを護衛につけて、村へ戻ってもらってます。」


「そうか。」


 斧を元の大きさに戻し、深刻な顔をするキャノさん。


「他には?」


「ここにいたのはキャノさんたち傭兵団狙いの殺し屋。メンバーはネクロマンサー、その弟でゴブリンを使役する魔物使い、その兄弟に雇われた女の殺し屋とかぎ爪の殺し屋。」


「魔物使いと女の殺し屋は私たちがた・・・殺しました。」


 愛音が重い口調で説明し、才華も目線を逸らす。人を殺した重みはぬぐえない。


「魔物使いは小遣い稼ぎと言っていたました。捕らえたかったんですが、そこまでの余裕はありませんでした。」


 殺し屋はともかく魔物使いは俺がドジらなれけば捕縛できたはず。


「いやよく無事だったな。」


 労うように才華と愛音の肩を叩くキャノさん。


「ゴブリンイーターが、この付近のレベルではないからのらの。」


「ゴブリンの数は少なかったんで。むしろ、みなさんの方が大変だったと思います。」


 相対したのは3匹×2と2人それも同時に対峙はしていない。こっちは40近く×2を一斉に相手。


「ゴブリン全部にゴブリンイーターが寄生されてたのは初めてじゃのじゃの。」


「それより、ゴブリンをここまで従える魔物使いが珍しいし、ゴブリンにゴブリンイーターを寄生させた魔物使いってのは初耳だな。」


「本人曰く、ゴブリンの性欲以外で困ることはないそうです。」


「ふむ。そこらへんはこの件が終わったら教えてくれ。」


 キャノさんは中央の建物の方を見る。


「ねえ、イトベスじーちゃん。ネクロマンサーによって利用されている魂はどうしたら、解放されるの?」


「ん。基本は術式の解除だのだの。あとは魔力切れや、術式の継続時間が途切れるとかとか。」


「それは、術式の解除は使ったネクロマンサー以外でも可能?」


「術式の内容と実力しだいじゃなじゃな。」


「ネクロマンサーが死んだら、解放される?」


「それも術式、術者次第じゃのじゃの。可能性はあるがのがの。」


「術者しか開放できない場合はある?」


「それはすっごく稀じゃのじゃの。そのような術者には会おうとしても会えんのの。」


「その可能性は排除していいってことだね。」


「そうじゃのじゃの。」


 才華の質問に頷くイトベスさん。ネクロマンサーの実力がわからない以上、捕縛できない可能性もある。その稀な実力者じゃない限りは殺してもシクの魂は解放できる。


「それでもできる限りは捕縛するつもりでしょ。才華。」


「うん。万が一のことも考えてね。・・・・・もしネクロマンサーを殺すことになって、解放できなくても。そのときは、私が必ずその術式を・・・・・・」


 決意を示す才華。だがそこにはなにか違和感があった。俺にはわからないけど、愛音はその理由を察しているように見える。


「これからどうするんです?」


「建物に突入前に、ゴブリンどもの遺体を全て片付けといた方がいいのうのう。」


「そうだな。お前さん方もやれるな。ザイトは矢の回収を手伝ってやれ。」


 キャノさんの指示により、大掃除が始まる。

















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